今回のブログは、TA(Technical Architecture)に焦点をあて、システムのあるべき姿を描く際の勘所についてお話したい。簡単に”あるべき姿を描く“とは言ったものの、このこと自体に確立した手法は存在しない。そして数あるITアーキテクトの仕事の中で最も創造的で、”アーキテクト“らしい右脳を用いる作業と言える。本ブログでは私の経験上うまくいった例を参考にセオリーらしきものを探ってみたい。
一般的EAの世界では、①現行(ASIS)業務⇒②あるべき(TOBE)業務⇒③あるべき(TOBE)システム⇒④現行(ASIS)システムからの移行 という流れをたどる。“業務を見据えてシステムを設計する”ということに誰しも異論はないだろう。問題は②から③を考える際に④に引っ張られ、“つまらないシステム”になり下がってしまうことが多いということである。良いシステムは、[②TOBE業務]を実現する[③TOBEシステム]に、時代を先取りしたTAがミートしていると言える。言い換えればTA(狭義のIT)のパワーを上手く用いたシステムが業務に対してパラダイムシフトをもたらすという事だ。では実際にTOBEシステムを描く際にどこにどのように気を配れば良いのだろうか?
EA活動においてシステム将来像(青写真)を設定する際に最も難しい変数は“時間軸”である。我々人間が最も不得意な行為の1つに、時を越えて考えることが挙げられる。今に生きる我々にとって、3次元から4次元での発想に移ることはとても大きな困難を伴う。まず、この青写真を“将来のいつの時点”を前提に描くかという事がポイントとなる。仮に5年後を対象とするのであれば、5年後に手に入ると思われる新たなIT-SEEDSを活用したシステムを描き、それがどのような業務改革をもたらすかというように考える必要がある。
何やら理屈っぽくなったが、ここで私の実体験に基づいたお話をしよう。今から遡ること16年前の1999年、前職で外勤営業職のモバイルシステムの設計に携わった際のこと。当時流行していた業界向け米国製モバイルパッケージがあり、このアプリのアーキテクチャは当時一般的だった低速の携帯網をベースとしたC/Sモデルだった。今では考えにくいが、毎朝10~20分かけて、モバイルPC上のDBに前日の売上データをISDN経由でダウンロード&更新し、それから外出するというものであった。PC通信カードのアンテナ利用は、唯一ホームページを閲覧するに留まった。私は将来予定された高速3G回線とWEB技術の進化を確信?し、モバイルPC上にはブラウザのみを実装し、当時まだ成熟していないWEBアプリをベースとしたシステムを設計開発。余談だが、この米国製パッージベンダーの営業担当から「あなたは間違っている」とまで言われた記憶が蘇る。
この事例では、1~2年後の新しい通信サービスに“絶対”はなかったが、設計段階で敢えてリスクをとった事が、その後のシステムや業務に大いに役立っている(もちろん、新サービスが出るまでの代替案は用意しているが本流は新サービスを前提に考える)。ここで得た教訓は、将来のシステムを設計する時は、進化の早いハード・ソフトのインフラ部分をボトルネックに持ってゆくデザインを心掛けるのが良いということだ。決して現時点のTA部分の物足りなさを理由に飛躍のないシステム設計をしないようにしたい。その為にITアーキテクトは、新しいIT-SEEDSを用いた世の中のサービスを絶えずウオッチしている必要がある。
今後も、加速するITインフラの発達を前提に、将来システムの設計をするシーンがさらに多くなるだろう。例えば、IoT技術の進化ではイベント発生源でのデータ捕捉が可能となることから、システムのスコープそのものが拡大される。また、BIG-DATA技術の登場で取り扱うデータの種類も量も格段に増え、ビジネス活動におけるシステムの役割が変化するだろう。クラウド化の進展では、ITインフラ要件定義のあり方そのものが変わる。
システム再構築の企画が増えてきた昨今、10年先まで使えるシステムを設計するとなれば、決して現在のITインフラを軸に考えないことが重要である。少なくとも、ムーアの法則がまだ健在であり、今後のITの進化が加速し続けるうちは。そして忘れてならないことは、TA、AA層における新しいITインフラをタイムリーに取り込む為には、その上位に位置するDA、BA層が堅牢であることが前提にあるということだ。