今回のブログ“企業内情報生態系(その3)”は、情報系DB連載の最後として、各種DWHのビジネスへのフィードバックのサイクルについて考えるとともに、各種DWHの情報フィードバックの違い、それぞれの今後の方向性と課題についてまとめてみたい。
まず図1をご覧になっていただきたい。まずAゾーンのODSであるが、文字通り現場オペレーションの為に存在するので、ビジネスへのフィードバックはほぼリアルタイムである。そしてフィードバック情報の流通に関与する人はシステム運用に特化した専門知識を有する現場オペレータやヘルプデスクである。
次にBゾーンのCENTRAL-DWH及び最近出現したBIG-DATAであるが、後続のDATA-MARTへの橋渡しの役割はさておき、自身のデータ分析によるビジネスフィードバックを対象に考えると、情報の粒度、種類、蓄積量などから、短期的でアジャイルなビジネスの戦術へのフィードバックの役割を担うと考えられる。昨今のスピード経営においては、大きな戦略は変わらずとも、日々、精度の高い統計情報をもとにした現場のドライブは重要度が増している。しかしながら、このBゾーンの情報はパワフルであるがいささか暴れん坊の性質を伴うので、その扱いには高度なスキルを必要とする点が特徴である。ここの情報に関与する人々が、データ・マイナーやIT部門特殊部隊、さらには近年脚光を浴びつつあるデータ・サイエンティスト達である。
そしてCゾーンのDATA-MARTであるが、こちらはどちらかと言えば中長期のビジネス戦略の為に情報がフィードバックされる。データの粒度はサマリーされたものであり、なおかつかつ時間軸は長期に渡るので包括的なビジネストレンドを見てとることが出来る。これにより経営スタッフは、四半期、年度、3か年中期計画等のサイクルで戦略企画を立案する。彼らはIT知識に長けていないが、EXCEL表や時にはBIツールの利用者である。
どうであろうか、このような形に整理してみると、近年のBゾーンの躍進ぶりがアナログのビジネスを変えて行く気配が感じられるのではなかろうか。とは言え、戦略なくして戦術は生まれないのでCゾーンも衰退はしないだろう。表1上部に「各種DWHのビジネスへの情報フィードバックの特徴」を①目的・用途、②データ粒度、③サイクル、④出力形式 に着目してまとめてみた。
さらに表1下部赤枠内に「各種DWH及びゾーンの今後の方向性」について⑤⑥に予測してみたのでご覧いただきたい。まずODSでは、企業間コラボレーションの時代に入り、その為に企業間IT基盤・組織づくりが課題となる。CENTRAL-DWHでは、BIG-DATAとともに領域が拡大され、その為に、ビジネスとITの両方の専門知識を有するデータ・サイエンティストの育成が課題となる。DATA-MARTでは、BIツール利用が常識化するものの、企業内データ資源の種類と意味に関するユーザ教育が課題となる。そしてこれら全てには⑦のメタデータを格納する“REPOSITORY“の整備は避けて通れない。
最後に1つだけ苦言を呈しておきたい。BIG-DATAブームとともに再び情報系システムに脚光が当たることは日本のビジネスにもIT従事者にとって大変良い事であるが、上記のBゾーンを担う人間が圧倒的に少ないことである。データ・マイナーもデータ・サイエンティストも、いわゆる“クロスインダストリー”な組織形成が苦手な日本企業では、育ちにくいと思われる。現在の日本でビジネスとITの両専門知識を有する人間は極めて少数だろう。ビジネスニーズの本質を理解しないと、役に立つDWHの設計はできない。かつてDWHやBIが流行した時と同じく、高額な“ツール”だけを購入した挙句、ROIが得られないという悲惨な状況の繰り返しとなる。一方で、データに関する高度なハンドリング知識なくしては、Cゾーンで生き続けられたとしても、Bゾーンには決して生息することができない。
私見であるが、この担い手としては“企業内情報システム部(組織名称は異なるかも)”が一番至近距離にいると思われる。最近一部のメディアで乱暴な情シス不要論まで取り沙汰されているが、少なくとも全ての情報資源(メタファー)に接することが許され、企業活動におけるデータの流通機構を設計することが許される唯一の部門である。現在は“データ・サイエンティストらしい活動”をしていなくても、何とかしてユーザニーズを汲み取り、一般的なデータ食材から定食料理を作っているのだ。優秀なデータ料理人を目指すための基礎力は他部門より習得できているハズだ。情シスは、”情報資源(データ)管理”をコアコンピタンスとすべきである。