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前回は、テストケース密度とバグ密度による品質評価だけでは不十分であり、もっと多面的な評価を行う必要があると結論づけました。
今回は、その品質評価の多面性を筒井康隆氏のSF小説風に描いてみます。。。(※1)
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「本日からPMOとしてプロジェクトに参加することになりましたP子です。プロジェクトマネジメント研修を受けたばかりで、まだ実際のプロジェクト経験はありませんが、一生懸命がんばりますので、どうぞよろしくお願いします!」
プロジェクトマネジメント研修を受けたばかりの新人P子さんは、あるシステム開発プロジェクトのPMOに任命された。
(このプロジェクトのお客様は、システム開発の品質にうるさいみたいね。研修で学んだ品質管理の知識を実際にためす良い機会だわ。品質の良いシステムを構築するためには、あらかじめ定量的な品質目標を設定して、品質をコントロールする必要があるはずだわ。。。)=P子さんの心の声
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「じゃ、さっそく、レビュー真っ最中の外部設計の品質評価を手伝ってくれ。来週ぐらいに提出するよう、お客様に言われとるからな。」
システム開発プロジェクトの経験が豊富なベテランPMのM男氏は、ぶっきらぼうにP子さんに指示を出した。
(ここの客はやたら品質にうるさくてたまらん。とりあえず、外部設計のレビュー指摘数を新人に集計させて、適当にコメントを作文しておくか。品質評価なんて無駄な作業にSEの貴重な工数を割くわけにはいかんからな。。。)=M男氏の心の声
(えー、このあたしに無駄な作業をさせようっていうの!失礼しちゃうわ!それに、品質評価が無駄な作業ってどういうこと?)=P子さんの心の声
生まれつき他人の心の声が聞こえてしまう特別な能力を持っているP子さんは、M男氏の心の声を聞いて、とても嫌な気分になった。
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「なんじゃこりゃ!1ページあたり30件もレビュー指摘がある機能も、100ページでたったの1件しか指摘が無い機能も、どちらも品質に問題が無いだと?これじゃ、なんのためにレビュー指摘数を計測してるのかわからん!もっとちゃんと品質評価してこい!」
P子さんが集計したレビュー指摘数の集計結果にM男氏がコメントした品質評価レポートを見た発注側PMのB氏は、いきなり怒鳴りつけた。
(これじゃ、上司に説明できないじゃないか!こいつら、まったく品質というものがわかって無いのかも?このPMは、たぬきっぽくて信用できないし、この新人は、たぬきの言いなりかな。。。)=B氏の心の声
(えー!あたしをこんなM男と一緒にしないで!あたしは集計しただけで、いい加減なコメントを書いたのはM男よ!なんとか違うところをアピールしないと!)=P子さんの心の声
「す、す、すみませんでした!外部設計のレビュー指摘数は1ページあたり1件という目標を設定していますので、品質目標から大きくかい離している機能については、その原因と対策を検討して参ります。」
P子さんは研修で得た知識をもとに、今後のアクション案をB氏に返答した。
(ふん!余計なことを!)=M男氏の心の声
(ほー、品質目標からかい離している機能がほとんどだというのに、どうするつもりだ?どうせあてにならんから、ベンダーの品質保証部門に客観的な評価レポートを出させるよう手を回しておくか。とにかく、発注側IT部門としては、どんな論理でも構わないから、CIOとユーザーが納得するような品質評価をしなければならん。)=B氏の心の声
(「どんな論理でも構わない」って。。。でも、M男は信用できないから、品質保証部門の専門家を巻き込んでくれるのは、好都合かもしれないわ。)=P子さんの心の声
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「確かに、品質目標からかい離している機能ばかりで、外部設計の品質は良いとは言えませんね。我々からのコメントとしては、目標値からかい離している機能全てについて、外部設計書の再レビューを行って、1ページあたり0.2件以上の追加指摘を出すように勧告します。」
B氏からの要請で品質評価レポートを検証した品質保証部門のO氏は、M男氏とP子さんにこう告げた。
(突然の要請だから、システムの中身も品質状況もよくわからん。まあ、それなりに品質向上させるのが無難だな。我々としては、プロジェクト側になんらかのアクションをとらせたって事実さえあれば十分だ。)=O氏の心の声
(お前らがそんなレポート出したら、再レビューにかかる追加工数は、我々ベンダーの持ち出しになるぞ!もしそんなことになったら、「品質保証部門のせいで、プロジェクトが失敗した」とあちこちにふれまわってやるぞ!)=M男氏の心の声
(えー!専門家の評価もそんなにゆるい感じなの?M男だけじゃなく、みんな自分の立場を守ることばかり考えてるのかしら?)=P子さんの心の声
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「どうだ?外部設計書はできあがったのか?そろそろ操作マニュアルを作り始めたいから、最新の画面レイアウトを一式提出してくれ。」
ユーザー部門のK氏が突然P子さんに画面レイアウトの提示を求めてきた。
「あ、はい、まだ少し見直しがあるかもしれませんが、現在の状態だったら明日にでもお出しすることができます。」
P子さんは、まだ固まりきっていない画面レイアウトをもとに、操作マニュアルを作った場合に発生するかもしれない手戻りのリスクを気にしながら、K氏に回答した。
「あー、構わん構わん。少しぐらい画面が変わっても、あとでそこだけ貼りなおせばいいから、それで十分だよ。」
(どうせ操作マニュアルを作りながら、あちこち直してほしいところが出てくるよ。それに、ユーザーテストで実際に画面を操作しながら改善点を洗い出して、カットオーバーぎりぎりまで現場の要望を取り込んでもらうよう押し込むことになるよ。)=K氏の心の声
(そんなんじゃ、今やってる外部設計レビューとか、レビュー指摘数による品質評価って、どんな意味があるのかしら?なんかよくわからなくなってきたわ。)=P子さんの心の声
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「P子さんもプロジェクトに参加したばかりなのに、たいへんだねえ。画面レイアウトの最新版なら、このフォルダにおいてあるから、適当に持っていっていいよ!」
P子さんは、品質評価レポートのことも気になりつつ、しかしユーザーからの要望を優先して、各開発担当者から画面レイアウトの最新版を集めはじめた。
(そういえば、先月ユーザーさんに指摘された画面レイアウトの誤字を直して無かったかなあ?まあいいや、そんなものいつでも直せるから後回し後回し!そんなことより早く処理方式固めないとなあ。)=G君の心の声
(まったくもう!お客様からの指摘を修正せずに放っておくなんて、いったいどういう神経してるの?)=P子さんの心の声
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「そうか、もうユーザーは操作マニュアルを作り始めたのか。前回のステアリング・コミッティでは、外部設計レビューが難航しているような報告だったので、品質評価レポートの提示を求めたのだが、どうやら取り越し苦労だったようだな。」
発注側CIOのI氏は、プロジェクトの進捗と品質を気にかけて現場の様子を視察に来た。
(PMのB君がベンダー側の品質を疑っているようだったので、けん制のために品質評価レポートを出すよう指示したんだが。。。あまり開発途中でベンダーにああだこうだ言うと、かえって変な方向に行くことも多いからな。発注側としては、開発途中の品質状態がどうのこうの言うよりも、出来上がったシステムが我々のビジネスにどれだけ貢献するかをしっかりと評価する方が大事なことだ。)=I氏の心の声
(うーん。やっぱりCIOともなると品質に対する考え方もあたしたちのレベルとは全く次元が違うのかしら?でも、「ビジネスへの貢献」なんてあたしたちベンダーには評価できないんじゃないかしら?)=P子さんの心の声
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「いやー、CIO自らプロジェクトの現場にいらしていただけるなんて!我々としても品質保証部門の協力を得て、全力で品質確保に努めて参りますので、どうぞご安心ください。」
発注側CIOの視察という情報を聞きつけた受注側システム開発部長のD氏は、視察に立ち会うことで、プロジェクト現場に悪い印象をもたれないよう取り繕うのに必死だ。
(システムの品質は開発途中の評価がどうであれ、最終的にお客様が満足するかどうかにかかっておる。とにかく、お客様の印象を良くすることに全力を尽くすのだ。たとえ本番障害が出たって、すぐにリカバリーできればお客様に迷惑はかけないし、かえって夜遅くまで一生懸命やっている姿を見せることで、お客様満足度は上がるのだ。)=D氏の心の声
(まじ?「本番障害が出たって」だいじょうぶだっていうの?品質目標を設定して、品質をコントロールするのは本番障害を無くすためじゃなかったの?「品質」って何なの?いったい誰が言ってることが正しいの?もう全然わかんない!)=P子さんの心の声(※2)
・・・
「置かれた立場によって、各ステークフォルダーの品質に対する思いはさまざまである!」
さあ、みなさんは今回登場したどの登場人物の心の声に最も共感したでしょうか?
それでは次回もお楽しみに! < 前回 | 目次 | 次回 >
工藤武久
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※1 当ブログのタイトルと内容は、筒井康隆氏のSF小説『家族八景』を参考にしました。
・「筒井康隆」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』
2015年6月7日 (日) 23:29 utc http://ja.wikipedia.org/wiki/筒井康隆
・「家族八景」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』
2014年12月16日 (火) 13:42 utc http://ja.wikipedia.org/wiki/家族八景
※2 このブログはフィクションであり、実在する、人物・地名・団体とは一切関係ありません。