今回はユーザ企業にとってITコスト増の元凶である“ベンダーロックイン“からどのようにすれば解放されるかについてお話したい。ベンダーの方々にとっては、いささか過激に聞こえるかも知れないが、私はかねてからITベンダーとユーザ企業はそのパワーバランスが対等に保たれている状態が好ましいIT市場と思っている。レイヤーは異なれども、お互いのIT知識の切磋琢磨のみがより良い明日のIT環境を築きあげる。もちろんベンダー企業は製品やサービスを売ることが商売である。しかし、自由競争によって享受されるITイノベーションのパワーを半減させるような売り手側の戦略に対しては、買い手としてもある意味したたか”になって当然と考える。
私達は電気製品、住宅、車、楽器、旅行といったプライベートにおける日常の買い物において、今やそのメーカーやサービス会社を自由に選択できる環境にある。そしてこれらの製品・サービスは高額になればなるほど、安価なコモディティ商品とは対照的に、サービス価値を吟味する為のあらゆる情報を入手して“品定め”することになる。この事と同様に、ユーザ企業の情報システム部門が、あるIT製品やサービスが自社にとって適切かどうかを見極める“目利き”の役割を果たすことは必要不可欠である。もしも何かの原因でこの機能が阻害されるとすれば、そのツケは全て(自由競争の享受を受けられないことからくる)ITコスト増に現れることになる。
ベンダーロックインから逃れられない原因は様々である。「マルチベンダーにするより楽だから」という理由もあれば、「ベンダーとの資本関係があるので」という理由、「昔からのベンダーとの信頼関係によって」というモヤっとしたものまで様々だ。ここでは政治的理由はさておき、たとえユーザ企業がマルチベンダー化を望んでも、技術的側面から現在のIT環境から脱することができないケース(これが本当のロックイン)について、その対処法についてお話したい。この対処法は、言い換えれば”アーキテクチャ(構造)に照準を当てた根本的治療“という事になる。アーキテクチャによるベンダーロックインで古くから存在し今なお一部で健在なのが、前回ブログで取り上げたメインフレームである。ある業務アプリを稼働する為の、独自のOLTPソフト、独自のOS、さらには独自のハードでのみ稼働が限定され、他のプラットフォームへの移植は簡単ではない。それでは次に、ハードウエア、OS、ミドルウエアのいずれも移植可能なERPパッケージはどうであろうか?確かにプラットフォームフリーとなったものの今度は一体成型のERPソフトで一部だけを取り替えられないというロックインとなる。また近年のクラウド移行で全てのインフラから解放されたと思ったのも束の間、気を付けないとクラウド環境にロックインされることとなる(笑)。近年ハードウエアによるロックインは少なくなったものの、業務プロセスを“コード化”するという事は、ベンダー製品・サービスのロックインから完全に逃れることはできない。
がしかし、いざとなれば比較的容易に他のソフトウエアへの移行が出来るシステムアーキテクチャにしておく事は可能である。その答えは図1のようなものになる。中心にはどのITベンダーにも属さない自社の資産としての“データ“を位置づける。ここではその廻りを取り囲むDBMSとてベンダーソフトウエアと位置付けられる。その外側にはプロセス部品を共通化した”コンポーネント部品“としてのソフトプロセスが取り巻いている。そして外側のハードウエアに近づくにつれてベンダー色はいっそう濃いものとなるが、中心に位置するデータがベンダー非依存なので、外側部分のベンダーチェンジがあっても屋台骨は揺るがない構造となっている。
一方で、これとは真逆にERP等のプロセスソフトを中心に据えるとどうであろうか。最も変化し易いプロセス部品と一体化したデータが、プロセスもろとも全面取り替えとなり、プロセスベンダーのチェンジはビッグバンの様相を呈し困難を極めることが想像できる。
このように企業システムをデータCENTRICなアーキテクチャにしておくことは、ベンダーロックインされにくい構造を保つということになる。なぜならデータはユーザ企業自身以外の持ち主が見当たらないからだ。また、プロセスのロックインはベンダーにとって一時の売上キープに繋がるかもしれないが、長い目で見れば自ら新機軸としてのイノベーションの道を閉ざすことになりかねない。ユーザ企業は絶えずアーキテクチャによるロックインに目をくばらねばならない。また、ベンダー側には目先のビジネスキープとITによるイノベーションの狭間でピュアな感性が今求められる。