年末の挨拶の時季である。私の若いころに比べると師走の雰囲気も変化してきているが、一年を思い起こして、来年の行動計画やテーマに思いをはせるには良い時期かもしれない。ざっくばらんにお客様と話ができるのも年末年始という場の良さだろう。
さて、アベノミクスによりIT事業は活況を呈している。やることだらけで、IT部門、IT関連会社はますます忙しくなってきている。このような環境下、従来方式で残業を増やしたり、質が伴わない外注化を無理に進めて、トラブルを拡大させてしまうというようなことが起こっている。IT環境は激しく変化し、難易度も上昇している。従って、そもそもが無事に仕事を進めること自体が難しい。活況ゆえ教育への資金はあるが、必要な教育の時間が取れず、人材育成が追い付かないと言うのが残念ながら現状である。
先日、あるお客様を訪問した際に「反転授業」の話題が出た。1,000人以上の従業員を抱えるIT会社の社長の問題意識である。
もともと「反転授業」とは、学校教育変革への取り組みから来たもので、教師の一方的な講義と質問という、昔からの決まりきった教育スタイルを根本から見直し、“学び”の方法論を反転させたものである。生徒の“学びの自主性”を強調するところに特徴がある。科目の必要知識は、生徒がE-ラーニングや配布教材を学習して事前に理解しておく。授業という生徒と教師が実際に集まる場では、実践の場を設け、実際に問題解決に取り組ませる。問題解決に至る過程において様々な対話を行い、実践を通じて事前に学び理解しておいた知識を定着させ、問題解決の力を身につける、という従来にないスタイルのものである。
社員の活動も複雑で多様になり、企業が従来行ってきた形式(集合教育やOJT)では企業のニーズを満たせないのが実情であり、そのような中で将来を見据えた教育の改革にどのように取り組んだらよいだろうか、例えばそれは「反転授業」なのかもしれない、というような真摯な経営者の悩みを伺うことができた。
どの企業においても、あるいはどのような階層のマネージャにおいても、社員へのトレーニングの必要性を否定するものはいないであろう。しかし、多くは、トレーニングの為の時間をどう作っていくか、あるいは時間がない中で実力を効率的に獲得できる方法ないかなどと悩まれている。私も多くのお客様と対話する中で、このような悩みを解決する方法論の必要性を感じ、ここ十年、私なりにいろいろと模索してきた。
私は、かかる状況である今こそ企業の教育改革に大胆に取り組む時ではないかと考える。
この思いに基づいて私は弊社で提供する研修について、形を変化させてきた。変化の柱は、以下のようなものである。
①ワークショップを増やすことにより、知識の移転から実践力の醸成に軸を移す。
②実戦演習は、チームから個別指導へ重点を移し、個々の力に応じた実力向上を図る。
③事前学習や宿題により時間の効率化を図る。
④コミュニケーションや発表の場を増やすことで、個人のコンピテンシーを高める。業界のNPOの存在や社内での発表の場が、人を創る。
⑤お客様の実際の仕事をトレーニングの素材に取り入れ、仕事をしながら学ぶ。
⑥プロフェッショナルとしてのリーダーシップ教育の実施と個人の目標設定方法を学ぶ。
このような工夫を取り入れた研修を受けた人はかなり多くになるだろう。彼らは、受講後、それぞれに企業に戻り、多くの方は研修での学びを活かして現場の改革などに熱心に取り組んでくれていることだろう。だが、取り組んではいるが改革は進んではいないように思う。あるいは、大胆には進んでいない。改革は大胆に進めるものなのだ。
なぜ進まないのか? まず第一の阻害要因は、指導者(講師)である。これには時間がかかる。一般的に技術変革の阻害要因は、人間の認識の変化の遅れである。講師は、繰り返しを好む資質があり、これを変えるのは大変だ。新たな資質の講師を養成するにも時間がかかる。
第二の阻害要因は、企業の人事機能の認識の遅れである。変革時のけん引役にならなければならないはずのその人事部門が、旧態依然である。人事部門は、変革の推進役であり、社内でもっとも過激な部分を持っていて欲しいと私は、願っている。
第三の阻害要因は、提供側の変革であろう。変革の手助けになるのは、「従来方式の教育」を惰性で購入しないことだ。購入がなければ、生き残るために変革と淘汰が起こる。簡単な話である。実際の課題は三つ巴の様相であるが、お客様が気付き、引っ張っていくことで、事は早く進むだろう。
何はともあれ、この師走に、お客様の「教育変革をしたい」と言うニーズを聞けたことが、私にとっては、励みになる。ありがたいことである。
来年からは、反転授業も含めた企業の教育改革に、よりいっそう取り組みたいと思う。