今回は大規模システム再構築が長期にわたる場合のマスタモデルのブリッジについてお話ししたい。トランザクションデータのブリッジは一般的かも知れないが、マスタのブリッジはあまり聞いたことがないと言われるかも知れない。
マスタモデルのブリッジは、次のようなケースに効力を発揮する。それは、ビジネスの拡大や戦術のミクロ化に伴い、システム上のマスタモデルをより柔軟なものに変えたいが、一方で現行システムが順次再構築となるため新旧両方のマスタモデルが必要となるといったケースである。モデル変換ブリッジはM&Aや新規事業進出により否応なしに設置する受け身のケースばかりでなく、システムの柔軟性や拡張性を高めアジャイル経営に万全の備えをするための”攻めのIT戦略への布石”に使うことができる。
このブリッジにはおおよそ以下のようなものが挙げられる。①マルチカンパニーモデル化(複数会社対応) ②組織の無限階層モデル化 ③商品をグルーピングする新たな集計KEYの付設 等だ。①はビジネスの単体経営からグループ経営へのシフト ②は将来の組織改革 ③は組織横断の事業評価 といったように、いずれも近い将来のビジネスの変化を予測したシステムへの布石である。マスタのTOBEモデル(あるべき姿)とは、往々にして今発生している課題対応ではなく、“将来の柔軟性を担保するモデル”という事になる。
また、これらの布石に要するシステム対応工数は、いざ事が起こってからのシステム改修に比べて遥かに小さいもので済むと言える。例えば①の例では現在のデータモデルから、各エンティティの主KEYに会社コードを付加したモデルへの変換プロセスを追加。②は階層構造の組織エンティティを、循環参照型に汎化して属性項目に組織区分を付加するプロセスを追加。③は分類コードを属性にもつ商品マスタのサブタイプを作成するプロセスを追加。といった具合にせいぜいプログラム数本である(図1にこれらのスキーマ操作例を表した)。そして、予めマスタ化されていれば、いざシステム変更となればこのマスタを利用したものになるが、マスタ化されていないと慌ててハードコーディングで対応したりすることが起こったりする。
このマスタ変換ブリッジは、当ブログで度々登場しているマスタデータハブ(MDH)上に実装される。図2にMDHにマスタ変換ブリッジを実装した際の移行期間中の状態と最終形とを表した。すべてのアプリケーションが新しいマスタモデルを利用するようになるまで、旧マスタモデルは生き続けるが、最終的には画面エントリから生成される新マスタモデルだけに切り替わる。このアプローチの特徴は、バックナンバーの”緩やかなマイグレーション(その1)”や”(その2)”と同様に、リスクヘッジを重要視し、移行期間は長期に渡るが気が付けば新しいモデルに切り替わっているというものである。
今回はいつもより細かいノウハウに言及してみた。正直、地味な話であるが、開発納期やコスト厳守に追われるあまり、このような先仕込みの一手が削減されるケースが多いのではなかろうか。本シリーズ名の”極意”というには少し大袈裟だが、同じような局面にさしかかった読者に「これはケチらない方が良い」というヒントとなれば幸いである。