今回は前回のマスタデータに続いてトランザクションデータに着目し、TDH(トランザクションデータHUB)によるマイグレーション(移行)について説明したい。
中央に位置するHUBに共有度合の高いデータを格納し、これを利用先の各アプリケーションシステムで疎結合利用するという基本的メカニズムは、MDH(マスタデータHUB)と同様である。しかしTDHはシステム内の主要イベントデータを対象とするので、汚れたデータ環境を浄化する役割を担うばかりではなく、企業内基幹系システムの部分的再構築を容易にするという点で効果のスケールが一段大きい(バックナンバー「2014.3.25トランザクションHUB(TDM)」を参照)。
今回もマイグレーションの過程の動画を作成したので見ていただきたい。なお今回はシステムがスパゲッティ状態になる過程は省略し、中央にTDHを設置するところからスタートする。まずは主要トランザクションを1つずつターゲッティングし、発生源からの新規トランザクションデータを集信後、TDH上の“トランザクションDWH”に追加更新する。そしてこれを利用する各々のアプリケーションに向けて、先の追加更新とは非同期で、要求条件に合致するものをDWHから抽出&配信する。各アプリ側では受信したトランザクションを元にローカルDBを更新する。これをトランザクション毎に順次、エンドtoエンドでのデータ同期からTDH経由に切り替えて行く。ここで注意を要するのがビジネスニーズから密結合が要求されるもの(トランザクション処理における1コミットに相当する単位)まで非同期インターフェースにしてしまわない事である。
TDH経由に切り替える順序は、ビジネス側からの要請に基づき再構築が計画されるシステムが取り扱う主要トランザクションからでよく、それとは無関係なトランザクションは後回しでも構わない。そして、新システムが安定稼働するまでは旧来のエンドtoエンドのインターフェースは残しておき、テスト時の現新比較やいざという時のバックアップ経路として利用可能である。このようにTDHの導入は移行過程における強力なリスクヘッジとなり、あたかも大都市の再開発のごとく緩やかなマイグレーションを可能にする。かつて私は部下とともにホスト・ダウンサイズにおいてこのTDHをふんだんに活用して、メインフレームを無理のない自然死に持ち込んだ。
さらに、このTDHの効果は上述したマイグレーション時のリスクヘッジ機能にとどまらず、疎結合アーキテクチャがもたらす多くのメリットを享受できることにある。ITアーキテクチャはビジネスの要求(時代の要請と深く関係)とともに変化するものである。21世紀の“多様性を重視したグローバル化の時代”にマッチしたITアーキテクチャを考えると、かつてERPオリエンテッドで実現しようとしたホモジニアスなアーキテクチャでは限界があり、このようなヘテロジニアなアーキテクチャに移行して行く必要があるのではないだろうか。さしずめクラウドサービスの利用は直近で疎結合が求められる課題である。
続々と登場する新たな価値あるサービスの積極的利用、グローバル化に伴う異文化のシステムとの連携要請などITに求められる期待は少なくないが、一方で汚れたカオスと化した既存システムの保守問題も多い。この両方の課題を解決する為にも、このようなアーキテクチャの軸を持った計画が必要不可欠である。