1 はじめに
サッカーのワールドカップが終わってしまった。ブラジルに圧勝してからのドイツの強さイメージは圧倒的だった。というより、ブラジルは本当にどうしたんでしょう、という気持ちのほうが強い。拙著「負ける戦略」の通り、そこから学びまた立ち直ればいいのだが、あそこまで叩きのめされると・・どうなんだろうと思う。準決勝のブラジル代表はパニックに陥って思考停止状態だったようで、未曾有の出来事が起きると普段どんなに強くても崩壊し得ることを示してくれた。仕事でもあり得る話であり、私自身も気を付けなければと思う。
さて今回は予告した通り、企業の戦略的なデータ活用においてITストラテジストがどう貢献するか、を軸に続きを記述したいと思う。
2 どのようにデータ活用するか
IPA試験の出題に則って考えてみる。実際の論文試験のメモ書き風だが、ご了承いただきたい。
【設問ア】
・対象となった事業の概要と特性
地域に根差したコンビニエンスストア
特産を活かした品揃えで他社との差異化を図っている
POSの顧客履歴データによる商品展開は実施済み・戦略的なデータ活用を行うことになった背景
トップシェアを誇る競合企業では既に活用しており、
成果を上げていることが専門誌より発覚
その競合企業が、最近当該地域で出店数を伸ばしてきた
→ 同様な施策を試みなければ自社が危うくなるのは必至【設問イ】
・活用したデータと分析方法
POSデータ×(ミニブログデータ+検索サイトデータ)
→当該企業限定品を広報担当がミニブログやサイトで発表したとき、
その反応データ(*1)と実際の売上個数との定量的相関を時系列に分析する
・分析結果を踏まえた立案
商品別に時間的な相関形成のありかたを見ることで、どのタイミングでどのように広報をするのが効果的かを立案できるようになる・実施した施策の例
特産のいちごを使用したオリジナルのスイーツ(相対的に高価)
反応データが週末に向けて増える傾向
その結果、週末夜間に30~40代女性に多く売れる傾向 が見受けられた→ 働く女性の「週末ごほうび」としての位置づけ がこの商品に仮説可能
→ 週末に向けてミニブログ告知を増やす施策を導入した
まず、どのような情報やデータを想定するかだが、IPAの試験では事例を3つ示している。「インターネット上の様々なWebサイトの情報」、「POSなどの顧客の購買履歴データ」、そして「設備、機器の稼働実績データ」である。おそらく多くの受験生にとっては最後のが最も記述しやすかったと思われるが、私は2つ目のPOSデータを、事業としてはコンビニを想定した(*2)。
それからPOSデータの購買履歴とTwitterやGoogleとのデータ連携を考えた。コンビニ業界ではおそらく当たり前に実施されている分析だと考えるが、どうなのだろう(*3)。そして結果として効果的な宣伝施策が可能となった、とした。(もっとも、ネットをあまり使わない世代向け商品の場合は、有効とは言えないため現実的には注意が必要である。)
3 ITストラテジストの役割とは
今回、フォーカスしたいのは実はここである。どのようにして推進するつもりなのかを問われている。やはりこれも、問題自体に考えるヒントが記されているので、それをベースに考えた。
【設問ウ】
・事業責任者に説明するために、どのような事項を重要と考えて検討したか→特に以下の3点について、重要とした。
経営戦略上の有効性
自社独自の「特産を活かした商品」の市場への更なる訴求を図る
商品クラスタリングと顧客ターゲティングをデータ分析で発見し、施策検討のベースにすることを強調
→従来のデータ分析との対比より、当該分析を分かりやすく説明する運営体制
社長直轄とし、トップダウン的に実施する
データ分析のスペシャリストを外部より調達し、技術リーダーとなってもらう人材育成上の課題
上述した外部要員は準委任契約とし、支援内容に「自社社員への教育(OJT)」
これによって、自社内でも徐々にデータ活用の風土を根付かせ、育成していく・立案し、実施した施策に対する経営者、事業責任者からの評価と改善点
(略)
ITストラテジストの役割とは、「情報技術を活用した事業革新、業務改革、革新的製品・サービス開発を企画・推進又は支援する業務に従事し、次の役割(略)を主導的に果たすとともに、下位者を指導する」である。少なくとも、その軸がぶれていなければいいのだという理解のもと、考える。
実行にあたり重要なのはその適切な実現シナリオを作成し、それを役員会に説明し納得してもらえるかである。役員会メンバーがどれだけITに明るいかにもよるかもしれないが、、「グラフにしたり仮説検定したりするような従来の方法ではない、構造やメカニズムを見つけ出すためのデータ分析」の重要性を分かりやすく図示的に説明する。そして、将来的に社内にその技術力をつけていくことを述べていけば、理解されやすいのではと考える。
4 終わりに
以前にも増して現代は不確実な時代なので、データを活用して新たな「穴場」を発見したり、新商品のコンセプトを考えたりするのは、今後ますます増加すると考える。そして、実際に研究開発したりモノを作ったりする技術よりも、データを分析する技術があれば、それがコア・コンピタンスみたいになってくるのかなとも考える(実際、そうなりかけている企業も出てきている)。
また、これはあくまで論文で示す「試験解答」なので、基本的な(一般的な)考え方にすぎないのかもしれない。実際のところ、社内外の人間関係、組織間関係が制約になったり、つまらぬ感情が戦略実行の阻害要因になったりすることは多々ある。
では、この解答作成自体に意味はないのか?というと、私はそうは思わない。それを言うなら、司法試験や弁理士試験も同じく意味のないことになってしまう。基本的な(一般的な)考え方があればこそ、それをスタートとして、現実の議論の出発点にできると考えれば、決して無意味なことではないだろう。そういう暖かい目で今回のブログを捉えて頂ければ幸いであります。
注釈:
(*1) いわゆるリツイート(他者への拡散)、検索サイトでのトレンドのデータを指す。リツイートの場合は、付加コメントの定性分析(ポジティブか否か等)、画像の有無(画像有りの方がより拡散欲求が強い)も分析の軸とするといいかもしれない(実際の答案はそこまで詳細記述できないかも)。
(*2) 更に言うと、ここでは「福岡地区限定のコンビニが販売している『あまおう』のお菓子」をイメージした。(北海道のように)地域限定のコンビニがあるのかは存じないのだが・・・なお、個人的に「あまおう」は大好きである。
(*3) 技術的にはTwitterのAPIやGoogleトレンドを用いればそんなに難しくないと考える。ただし、どのような単語で検索をするのが高精度になるかは、人の判断に左右され難しいところである。それも自動計算できるところであれば、なおいいのだが・・・技術的なことはこれ以上踏み込まないこととする。
最後まで読んでいただきありがとうございました!!!
参考文献
※URLの最終アクセス日は何れも2014年7月14日
[1] 情報処理技術者推進機構 情報処理技術者試験 ホームページ https://www.jitec.ipa.go.jp/