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AA(アプリケーション・アーキテクチャ)への入り口


今回はEAの中でもDA(Data Architecture)層と同じくしてユーザ企業情報システム部門が深く関与していなければならないAA(Application Architecture)層の入り口にあたる成果物にフォーカスを当てたお話をしたい。 AA層の成果物は、建築に例えるなら、DAが部材表とすれば、さしずめ施工図に相当する。そして、このドキュメントは社内情報システム部門がユーザニーズに基づいて”設計”を行った後、施工業者に申し渡す”施工仕様書”として機能する。

ではAA設計に際しての入り口はどのようなドキュメントから着手すれば良いのだろうか。世の中のEAについての解説本を見ると、“情報システム関連図”や、“システム機能構成図(表形式)”といったドキュメントが挙げられるのを見かけるが、正直言ってDA層のER図と比較して冴えないものが多い。DFDはややDA寄りであることや、物理的なプロセスが見えにくいことが挙げられる。ユースケース図はアクターとの関係は分かるが、プロセス間の関係がわかりにくい。そして、ユースケース図もDFDもどちらも、一目でエンタープライズ全容が分かりにくい。企業システムがシンプルで小規模だった時代は良かったが、今ではそうは行かない。

図1近年、私が用いているものは、図1(※この例は架空会社のサンプル)のようなものである。「なんだ、こんな絵よく書いてるよ。 」「これってDFDに近いんじゃない?」とおっしゃる方もいるかもしれない。記述様式は図2の如く極めてシンプルである。システムとサブシステムの掲載、システム間の主なデータのやりとり、そして主要なデータストック(DB)の表示である。UMLシンパの方々からは、複数の視点を分けて書きなさいとお叱りを受けるかもしれない。システムとシステムの関係に着目しているのにサブシステムを透かし見るのは変だとか、システム間のデータのやりとりを書いているのにデータストックを併記するのは変だと言われるだろう。それらの批判を承知で正面の顔に横顔も合わせたピカソ的なモデル図を敢えて推奨したい。この図の最大の利点は”1枚の絵で表す”事である。別紙への参照や、ハイパーリンク表示では瞬間的に思考が瞬断されるからである。この1枚の絵をトップビューとして、その下にシステム毎のユースケースや、DFDが描かれることが好ましい。このトップビューに、さらに調子に乗ってプラットフォームまで併記すればTA層のヒントにもなる。でもここまでである。これ以上の視点を併記するとコテコテになり、書いた人間以外に理解不能な代物に陥る。

図2 前々回のブログ“ITアーキテクチャと美しさ”でも触れたが、正確性とわかり易さは必ずしも一致しない。機械で計測したような正確さはEAの全体描画の段階では必要ない。寧ろ、デザインセンスが必要である。AAの全体鳥瞰図においては、各システムの位置関係や、色使い、大きさといったバランスが大事である。

現状をわかり易く描画できれば、今度はTOBEの鳥瞰図をどのようにしたいか?を表せば良い。例えばマスタ・データを中央のMDH(マスタデータハブ)に位置づけ、その周りにアプリを配置するとか、孤立化したサイロ状態になっているアプリをインターフェースするとかの改善点を表すのである。 「なんだそのくらい普段から書いているよ」とおっしゃる方も大勢いらっしゃるかもしれない。ではこの絵を部門内で共有できているだろうか。そして、CIOやシステム部長のトップマネジメント層がこのASISとTOBEの2枚のシステム関連図だけでも手元に保持されることを推奨する。コストダウンのKPI目標やリスク管理も大事だが、業務アプリの将来像を眺めることはあるべき姿に向かう恰好のイメージトレーニングとなる。
 


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中山 嘉之
1982年より協和発酵工業(現、協和発酵キリン)にて、社内システムの構築に携わる。メインフレーム~オープンへとITが変遷する中、DBモデラー兼PMを担い、2013年にエンタープライズ・データHubを中核とする疎結合アーキテクチャの完成に至る。2013年1月よりアイ・ティ・イノベーションにてコンサルタントを務める。【著書】「システム構築の大前提 ― ITアーキテクチャのセオリー」(リックテレコム)

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