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前回まで見てきたように、プロジェクトの初期見積りにはロマンを感じます。それと同時に、見積りを巡ってはオカルティックな側面も多々あります。そう、見積りは「お金」を扱うため、水木しげる氏の妖怪漫画に出てくるような魔物たちが集まってくるのです!(※1)
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RFP(提案依頼書)を受領したベンダーは、提案書を作成し、プロジェクトに必要なコストを見積ります。この見積書には、必ず「見積り前提」というものが、大量に書かれることになります。そりゃそうですよね。RFPを発行する側も含めて「見えていない部分」を見積りに含めるわけなので、実際のプロジェクトでは、必ずしも見積り時に想定した通りにならないことが多々発生するのは目に見えています。
「見積り前提」が必要な理由は、「見えていない部分」をどう類推したかを発注側と受注側があらかじめ共通認識を持つことで、プロジェクトが見積り時に類推した内容と異なる方向に進んだ場合に、当初見積りとの差異の大きさや差異の根拠を公正に評価できるようにするためです。
「見積り前提とは、見えていない部分をどう類推したかを明らかにしたものである!」
少し言い方を変えると、プロジェクトの独自性により見積りがブレる要素に対して、見積りを行う上で仮置きした条件の一覧が見積り前提です。見積りがブレるということは、プロジェクトに内在している不確実性、すなわち、個別リスクの一覧というとらえ方もできます。初期見積り段階では、不確実な要素が多々存在しますが、プロジェクト全体でかかるであろう最終的なコストをはじきだすために、それぞれの個別リスクに対して一定の期待値を設定して、見積りを積み上げることになります。
このようにとらえると、プロジェクトの独自性に依存するはずの見積り前提は、プロジェクトごとにその内容は大きく異なっているはずです。ところが、現実の提案書に書かれる「見積り前提」は、まるで呪文のように、どのプロジェクトもほとんど同じ内容が書かれることがあります。これはいったいどういうことでしょうか?
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これまで当ブログの中で何度か言及してきたように、プロジェクトの成功確率はいまだに30%程度と言われています。つまり、半分以上のプロジェクトが失敗しているわけです。失敗した場合は、たいてい追加費用がかかることとなり、発注側か受注側のどちらか(または両方)がそれを負担することになります。
発注側からしてみれば、いくらRFPの内容が完璧ではなかったとしても、システム開発の専門家に委託しているはずなので、プロジェクトの失敗の責任の一部は、受注側にも負ってほしいと思うでしょう。ところが、受注側としては、プロジェクトが失敗するたびに費用負担をしていては、商売になりません。なにせ、半分以上のプロジェクトが失敗するのですから。。。
そこで、受注側としては、プロジェクトが失敗した際の追加費用の負担を最小限にとどめるために、追加費用を負担したくないケースを「見積り条件」として提示することになるのです。まあ、確かに半分以上のプロジェクトが失敗する現状では、自衛手段が必要なことは仕方ないところですが。。。
それにしても、追加費用を負担したくないケースをすべて見積り条件として提示するというロジックの場合、どんなことが起きるでしょうか?そうです。膨大な過去のプロジェクト実績情報から、失敗の原因や追加費用の大きさなどを分析し、受注側の損失につながる可能性のある失敗原因については、どんなプロジェクトであっても必ず追加費用を回避できるような見積り条件として一筆いれておくということになります。
さあ、これで、どんなプロジェクトにも通用する(?)魔除け(受注側責任回避)の呪文のできあがりです!このように積み上げられた呪文としての見積り前提は、時間の経過とともにその本来の意義や目的が忘れ去られ、「とりあえず入れとけ」という上からの指示のもと、いつまでも受け継がれていくことになるのです。。。
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このようにして、魔除けの呪文つきで提示された見積りを巡り、さまざまな妖怪たちが登場しながら、システム開発プロジェクトのドラマが繰り広げられます。どんな魔物が登場するか、少し紹介してみましょう!
・ 顧客予算を透視する妖怪「百目」
当ブログの 【第26回】まだ見えていない部分をどうやって見積りに含めるのか? におけるベテランPMのM男氏の発言を思い出してください。M男氏は、どうせプロジェクトの進行に応じて、予期せぬできごとが多発するのだから、初期見積りはお客様の予算額をターゲットにして提示すべきだと主張しています。どんなシステムを開発するかを度外視して、「お金」のことだけ考えていたとしたら、プロジェクトは成功するはずありません。しかし、顧客予算の把握は必ずしも悪いことではありません。当ブログの前回登場した注文住宅の例のように、顧客予算に見合ったスコープに絞って提案する業者は良心的で安心感が持てるでしょう。
・根拠もなく見積りを膨らませる「再見積りの超魔術師」
見積り書には、「見積り前提」とともに「再見積り条項」というものが必ず記載されます。「見積り前提が変わった場合には、再見積りさせていただきます。」というのが、常套手段です。発注側が提示している要件については、なんら追加も変更も無いにもかかわらず、プロジェクトの進行とともに何度も再見積りが提示され、その都度、魔術のように見積り額が増えていきます。再見積りの超魔術師は、たいていの場合、見えないところまで見積りに含めきれなかった、過少見積りのプロジェクトに出没します。
・変更を障害として押し付ける妖怪「ぬらりひょん」
追加コストの支払いを避けるために変更依頼や再見積りの手続きをせず、そのままユーザー受け入れテストまで待って、要件変更を障害指摘の束に混ぜて無償で対策を強要する妖怪もいます。受注側責任の障害が多発している状況では、受注側の立場が弱くなることに乗じて意図的に悪事を働くのです。ただでさえ障害が多発していて混乱しているプロジェクトをさらに混沌とさせてしまいます。
・追加費用負担を再委託先に転嫁する妖怪「ねずみ男」
システム開発においては、再委託、再々委託は日常茶飯事です。一次受けの業者は、何も手を動かさずに全て再委託先に丸投げなんてこともあります。そんな状況では、プロジェクトの失敗によるコスト超過の責任も全て再委託先に転嫁することで、自分の身を守る妖怪が出没します。このような妖怪が出没するプロジェクトでは、責任があいまいとなるため、成功など望めるわけありません。
こういった妖怪たちは、あなたのプロジェクトには見当たらないでしょうか?悪いことにこういった妖怪たちは、組織内で力を持っていることが多いので、なかなか追い払うことができないようです。そんなときは、ゲゲゲの鬼太郎のような正義の妖怪コンサルタントの力を借りる必要があるのかもしれませんね。。。
それでは、次回もお楽しみに! < 前回 | 目次 | 次回 >
工藤武久
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※1 「水木しげる」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』
http://ja.wikipedia.org/wiki/水木しげる 2014年5月4日 (日) 09:58 UTC