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前回は、プロジェクトの初期見積りは考古学のように「わずかな手掛かりから全体像を導く」作業であり、その出発点として「まだ見えていない部分」がどの程度あるのかをさぐることが最も大事だということを考察しました。
今回は、この「まだ見えていない部分」をどのように見積りに含めるかを考察したいと思います。
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RFPに対する質問などを行うことで、まだ見えていない部分がどの程度あるかの感触が把握できたら、次に何を行うべきでしょうか?
――― プロジェクトマネジメント研修を受けてきたばかりの新人P子さんの意見です。
<新人P子さん> : 「うーん。なんか『まだ見えていない』のに『どの程度あるか』なんて表現は、どうも矛盾してるように感じるんですけど。。。でも、修学旅行の行先で何が起こるかわからないから一応健康保険証持ってくとか、緊急連絡先を先生に教えておくとか。。。そうか、それってリスク予防対策を考えるってことですか?」
(するどい!)そうですねえ。もちろんプロジェクトリスクについての考慮は必要ですが、それはまた後で考えます。
――― 長年現場でプロジェクトと戦い続けてきたベテランPMのM男氏の意見です。
<ベテランPMのM男氏> : 「ふっふっふっ!そこは経験豊富なベテランPMの得意とするところじゃ。プロジェクトの先行きなんてテスト段階になっても見えないことが多いから、ましてや初期見積り段階では真っ暗闇さ。だから、RFPに書かれていることなんて気にせず、うまくスポンサーのふところに入り込んで、どれくらいこのプロジェクトにお金を出してくれそうか探り出して、それに近い金額を見積りとして提示すれば、すんなり予算を承認してくれるものじゃ!そこまでこぎつければ、後はやりながら考えるまでよ。」
(まあ、そういう探りも確かに必要ですけど。。。)
って、確かに初期見積りをどのように行うかは、一筋縄では行きません。しかし、ここで考古学と同じように、RFPに書かれているわずかな手掛かりと、自組織で構築されてきたプロジェクト情報や一般に公開されている統計情報などをうまく活用するのです。もちろん、有識者や専門家の知識も活用できます。
では、どのように活用すればよいか?前回とりあげた車の運転の例でいえば、車を運転していて先が見えなければヘッドライトをつけます。しかし、それだけでは自動車事故は撲滅できませんよね。たとえば、ヘッドライトをつけてもカーブなどで見通しが悪い時もあります。そんなときは、たとえば標識や周りの情景から、この先何か気を付けなければならないことが無いかを推測しながら、不測の事態にそなえます。何かのテレビCMであるように、タクシーの運転手が子供の飛び出しを予測して車を停止させたのは、その付近で子供が良く遊んでいて飛び出す可能性があることを情報として持っていて、その情報を事故予防のために有効活用できたからです。
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そう、過去の蓄積データとわずかな手掛かりから、隠れている要件を類推するのです。たとえば、何かの情報の検索照会機能があれば、照会するデータを登録したり、更新したり、削除したりする機能は必ずあるはずと推測できます。RFPに明示的に書かれていなくても、システムの特性や全体像から類推して、必要な機能の抜け漏れを補うのです。それらの機能は、RFP発行側も気づいていない場合もあります。しかし、見積りを行う側は、システム開発の専門家として、足りない情報を補った上で見積りに織り込む必要があるのです!
「過去のデータを活用し、まだ見えていない部分を推測して、見積りに織り込む!」
実はこの「推測」という作業は、「システム全体の設計を仮に行うこと」と同等です。システムの全体像をイメージした上で、足りない情報を補うという作業を短期間で行うのです。システム開発プロジェクトの初期見積りは、それだけ専門性が必要な作業であると言えます。
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ここで、実際の見積り作業をイメージするために、一般的に言われる三つの見積り手法について確認してみます。出展は、PMBOK第5版です!
1.類推見積り
類似アクティビティやプロジェクトにおける過去のデータを使って、アクティビティやプロジェクトの所要期間またはコストを見積もる技法2.パラメトリック見積り(筆者注:旧版では「係数見積り」と訳されていた)
過去のデータやプロジェクトのパラメーターに基づいてコストや所要期間を算出するためにアルゴリズムを使う見積り技法3.ボトムアップ見積り
ワーク・ブレークダウン・ストラクチャー(WBS)の下位レベル構成要素単位の見積りを集計してプロジェクトの所要期間やコストを見積る技法
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「まだ見えていない部分」が多い初期見積りの段階では、「類推見積り」の手法を使うことが多いと思います。「まだ見えていない部分」を推測で補った状態では、係数見積りやボトムアップ見積りを行うための元となる十分な情報が得られていません。そのため、不確かな情報を元に算出した変数(パラメーター)を乗じたり、不確かな情報を元に算出した個々の作業見積りを積み上げていくことになるため、見積りのブレが増幅されることになり、結果的に全体としての見積りのブレも大きくなってしまいます。
また、図1の基礎数値や変数には、たとえば仕様変更や品質不良による手戻りコストなど、現実のプロジェクト実施段階で発生するロスコストを織り込むことは難しく、プロジェクトが全て計画通りうまくいった場合の見積りになりがちです。従って、初期見積り段階で、係数見積りの手法を用いて見積りを行う場合、これらのブレの要素を多く含んでいる可能性があることと、ロスコスト等を別途考慮すべきかどうかということを十分検討する必要があります。
これに対し、プロジェクト全体に対する類推見積りの場合は、過去の類似プロジェクトの全体コストを元にするため、ブレの要素が増幅されることはなく、また、プロジェクト全体としてみたときのロスコストも含めた見積りとして扱うことが可能です。
このように、一般的に見積りのブレ幅が大きいとされる「類推見積り」が、初期見積り段階で使われる理由は、単に情報が少ないからということだけでなく、ブレの増幅を回避するという意味合いもあるということを意識しておくと良いと思います。
それでは、次回もお楽しみに! < 前回 | 目次 | 次回 >
工藤武久
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※1 Project Management Institute, Inc.(2013)『プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOK®ガイド)』(第5版)Project Management Institute, Inc.