長らく技術的内容のブログが続いたので、今回は久しぶりにビジネスとITの関係にフォーカスし、“ROI(Return On Investment:投資対効果)”についてお話したい。最近、IT関連のマスコミで企業内情報システム部門の凋落を誇張する記事を時おり目にする。確かに肥大化、複雑化して身動きがとりにくくなった社内基幹系システムを前に、社内情シ部門が悪戦苦闘しているのは確かだ。そして、レガシーシステムのしがらみが少ないゲーム業界やWEBビジネスでのITは、そのもの自体が直接的な売上貢献に繋がるので効果が分かり易い。しかし、前者には先がなく、後者にのみ夢があるような印象を与えるのは如何なものか。そもそもITの売り手と買い手のビジネスモデルは異なるのだ。
ITを生業としない企業(この方が圧倒的に多い)において、今後も社内業務へのIT活用の重要性は変わらない。いや、IT企業においても自社の業務システムが“紺屋の白袴”で良いはずはない。ただ、WEBビジネスでも社内業務システムでも、投資対効果が問われることは同じである。
企業におけるシステム化投資のROI貢献は売上高拡大以外にもいろいろ存在する。図1に、社内情報システム部門のBSC・戦略マップの例を掲載した。BSC(バランスド・スコアカード)自体の説明は省略するが、このマップは、結果として財務目標を達成する為に、顧客、業務プロセス、従業員の学習と成長、それぞれの視点のアクションプランが下から上へ連鎖的に機能することが必要であることを示している。そこには、ビジネスアジリティの向上や、営業ワークスタイルの改革といった売上拡大に対しては間接的なアクションが含まれる。強いていえば、マップ右端に示された“売上高xx億円アップ”に直接つながるラインがWEBビジネス的と言えよう。そして、非IT企業では、ITコストダウンによるROI貢献度合いが大きい。利益率10%のビジネスでの1億円のコストダウンは10億の売上増を必要とするが、技術的進化の激しいIT環境では工夫の仕方次第で1億のコストダウンが可能だったりする。複雑性と冗長性の排除によるシステムのシンプル化やクラウド化によるインフラの削減で、ITコストダウンを達成することは、計画性をもってすれば十分に実現可能である。
さらに昨今では、売上高の増大やコストダウンとは一見無縁のCSRへの貢献も企業価値を高める重要な要素である。欧米の事例であるが、ある製薬会社がその企業の薬を処方している患者さん同志のコミュニティ・サイトを運営している例などがこれに相当する。日本では花粉飛散予測などもその類であろう。物を売る事だけが企業の存在価値ではない時代に入ろうとしている。今後は、BtoBの企業でも、BtoBtoCのCをターゲットにしたIT企画が増え、ITによる企業のROI貢献は益々多様化してくるだろう。