先日、某エンジニアリング企業のシステム関連会社で、開発・保守現場を統括している部長とお話しをする機会がありました。
その方は、ITの黎明期より現場の第一線でSEとしてご活躍されてきたとのこと。今は部長というお立場ながら、現場感覚を最重要視し、部下の報告だけでなく、様々な方とコミュニケーションを図る中で、事業の方向性や仕事のリスクや課題の予兆をつかむ努力をされています。また部下の育成に大変ご関心が高く、日々試行錯誤の中でご尽力されています。
その部長と私は、これまでITプロフェッショナル人材の育成について、2年間に渡り様々なお話しをしてきました。
・キャリアパスを明確化するためには、どのようにしたら良いのか?
・現在のスキルレベルを数値化し、育成すべきポイントを見える化するためには、どのようにしたら良いのか?
・個人の能力開発のための目標管理に育成ポイントを反映しかつその内容について、上司と部下が面談や日々のコミュニケーションを通じ成果を挙げるためには、どのような取り組みを行えば良いのか?
・さらにコーチング手法を取り入れ、人と人との関係性の質を高め、組織の活性化を図ることが、自組織では可能なのか?
などなど、これまでのお話しの概要はこのような感じでした。
しかし今回のお話しは、少し様子が違っていました。
部長ご自身のやり方の良し悪しはあったにせよ、部長から部下に対し様々な場面で行うべき仕事の価値を伝えても、相手がそのことに対し必要性が腹落ちしないため、表面的には相手は納得している顔をするが、期待した行動に現れていないとのことです。
『人は、人の話しを聞いて理解できるほど、賢く無いのではないか?』
そんな疑問が頭の中によぎると、気が付くとつい自分が行動し、現場に口出しをしている。その結果一部の部下は、「部長に任せればいいや」のような雰囲気で、指示待ちの姿勢が顕著になる。
これでは良くないと思い、定期的に1時間程度の対話を行っているが、5分で伝わらないことは、1時間行っても伝わらない無力感を、最近感じているとのことでした。
その例の1つとして、プログラムモジュールの共通化が話題に上がりました。
更地からシステムを作ってきた人は、どのような構造にするのか、1から真剣に考えてきたため、1つ1つの構造の意味を理解できている人は多い。しかし既に出来上がった、しかも巨大なシステムの改善・改修をしている人は、システムの全体像を把握し切れていないことと、全体の一部しかプログラムを触らない傾向が強くなる。その結果、「システムの全体構造を俯瞰した場合、ここは共通化しなければならない」といった感覚は希薄になりがちだとのこと。全体最適に関し意識が希薄なため、構築するシステムは、目先の納期・コスト優先で、安易に構築してしまっている現状があるとのことです。
対応策として検討されていることは、システムの規模は小さくても良いので、更地に近い状態でシステムを考え、設計・実装する仕事の機会を創り出し、その取り組みを通じてITプロフェッショナルとしての人材の育成に取り組みたいとのこと。
最後に自社における傾向として、その部長がおっしゃっていた印象的なことをご紹介します。
人材は10年単位で、「ITプロフェッショナルと言える集団」⇔「ITプロフェッショナルとは言い難い集団」の層があるように感じているとのことです。
「ITプロフェッショナルと言える集団」が直属の上司にいるときは、その人が自分で仕事を進めてしまうため部下は育たない。その10年が「ITプロフェッショナルとは言い難い集団」を作り出してしまう。
一方で「ITプロフェッショナルとは言い難い集団」が直属の上司にいるときは、部下は上司を反面教師とし自らを鼓舞する行動に出るため、「ITプロフェッショナルと言える集団」が生まれる。
さて、皆さまの職場ではいかがでしょうか?
<追伸>
MITの教授であるダニエル・キム氏が提唱している「成功の循環モデル」によると、「良質なチームの経験」をもたらす「場」こそ、仕事の成果を挙げるための大前提とされています。
『関係性の質』が『思考の質』の向上につながり、『思考の質』の向上が『行動の質』の向上につながる。その結果『結果の質』の向上につながる。
一方で『結果の質』が悪いと『関係性の質』も悪くなる。『関係性の質』が悪いと『思考の質』も悪くなり、『行動の質』も悪くなる。その結果『結果の質』は向上しない。
今回ご紹介した部長とのお話しは、まさに『結果の質』を高めるために『関係性の質』を向上させるための取り組みです。