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前回は、システム開発のプロジェクト計画は、実は「京都ひとり旅」の「綿密な計画」より「行き当りばったりの計画」に近いのではないかと疑問を投げかけました。その理由として、プロジェクト計画書はプロジェクトの進行に伴って、徐々に詳細化されていくということ、つまり「段階的詳細化」が行われるということをあげました。
本当にそうなのでしょうか?今回は、この「段階的詳細化」について、考えてみたいと思います。
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システム開発の計画が「行き当りばったりの計画」に近いと思うのは、単に私の携わってきたプロジェクトのマネジメントがイケてなかったために、そのように感じただけなのでしょうか?皆さんの携わったプロジェクトではどうだったでしょう?
その答えをさぐるため、まずは前回 【第22回】京都ひとり旅の計画は行き当りばったりが良いか? で定義した「京都ひとり旅:行き当りばったりの計画」を少し深掘りしてみます。
<京都ひとり旅:行き当りばったりの計画>
という定義であり、決まっていないことだらけではありますが、「京都ひとり旅」ということで、京都にひとりで行くということは決まっています。そして、この定義を良く読んでみると、実はプロジェクトの目標(スケジュール、コスト、スコープ、品質)にあたる内容は概ね決まっているか、一定の制約があることが読み取れます。
<スケジュール>
滞在期間や滞在期間中のスケジュールは決まっていないが、時間の許す範囲という制約は決まっている。
<コスト>
何にどれだけ支払うかは決めていないが、必要に応じてコンビニでお金をおろすということは、銀行の預金残高というコスト制約は明確である。
<スコープ>
京都での訪問先や移動手段は決めていないが、京都(もしくはその近辺)という範囲は決まっている。
<品質>
京都にひとりで行く目的は、気忙しい日常から解放されるためであり、その目的が達成されさえすれば品質目標も満足するはずなので、そういう意味では品質目標も明確である。
こうして考えてみると、「京都ひとり旅」のプロジェクト目標は明確であり、現地についてから宿泊場所や訪問場所を決め、それに伴って予算や滞在期間も段階的に決まって行くはずなので、「時間の経過とともに計画が詳細化されていっている」ととらえることができるでしょう。
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システム開発のプロジェクトでも、最初はプロジェクト目標(希望納期、だいたいの予算、大まかなシステム化範囲、システム化による効果等)ぐらいしか決まっていない状態で、プロジェクトがスタートし、要件定義を実施した後に、より具体的な計画を作成していく(段階的に詳細化する)ということがあると思います。
そして、プロジェクトの進行状況に応じて、仕様変更の発生、見積り誤りの発覚、品質不良のリカバリーのための追加予算確保などを通じて、各工程の詳細計画だけでなく、プロジェクト全体の計画まで見直すことは日常茶飯事であり、まさに「京都ひとり旅:行き当りばったりの計画」とほとんど変わらないように感じます。
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――― プロジェクトマネジメント研修を受けてきたばかりの新人P子さんは、すっかり困惑している様子です。
<新人P子さん> : 「なんか納得いかないわ!そんなに行き当りばったりでシステム開発を進めていいなら、研修で教わってきたことが全然意味無いことだって言うの?」
<ベテランPMのM男氏> : 「ふっふっふ。ようやくシステム開発の現場がどんなものかわかってきたようだな。PMBOKとか、なんとか言ってるが、結局われわれベテランの経験と勘で切り盛りするのが一番なんじゃ。いくら計画を立てたって、その通りには進まないんだから、計画は形だけにして、とにかくプロジェクトを先に進めることが大事なんじゃよ!」
おやおや、ちょっと話がおかしな方向に進んでいるようです。M男氏は、「段階的詳細化」と、「計画を立てずにプロジェクトを進める」ということを混同しているようです。
ここで、これまで何の気なしに使って来た「段階的詳細化」というものがどんなものか、その定義を確認してみましょう。出展は、もちろんPMBOKガイド第5版です。
「段階的詳細化(Progressive Elaboration).得られる情報が増え、より正確な見積りが可能になるにつれ、プロジェクトマネジメント計画書がより詳細化していく反復プロセス。」(※1)
さあ、何か気づいたことはあるでしょうか?
この定義後半の「プロジェクトマネジメント計画書がより詳細化していく反復プロセス」という部分だけをとらえると、確かに図1で示す「京都ひとり旅:行き当りばったりの計画」の段階的詳細化イメージも、図2で示す「システム開発の工程とプロジェクト計画の段階的詳細化イメージ」も、どちらも当てはまると言えるでしょう。
しかし、この定義の前半部分「得られる情報が増え、より正確な見積りが可能になるにつれ」に焦点を当ててみましょう。図2をよく見ると、ちょうど外部設計~内部設計の段階までに、システム開発の後半部分の計画類全てが策定されるようなイメージとなっていますよね。実際には、プロジェクトの進行状況によって、これだけきれいに計画が全て出来上がることはなかなか難しいかもしれませんが、設計が完了すればシステム開発に必要な情報のほとんどを得ることができ、論理的には後続工程の詳細計画を全てたてることが可能になるはずです。
何を言いたいかというと、「段階的詳細化」の定義のポイントは、
×「後続工程の開始が近くなってから、その工程の計画を詳細化する」のでは無く、
○「後続工程の計画に必要な情報が充分得られてから、その工程の計画を詳細化する」のです。
このポイントを踏まえて、「京都ひとり旅:行き当りばったりの計画」を見てみると、京都の訪問先や移動手段等の情報は、旅行に出発する以前に得ようと思えばいくらでも得られる状態であるのに、あえて計画を詳細化せずに活動の直前になってから詳細化しているということに気付くでしょう。ひとり旅というシチュエーションだからこそ、行き当りばったりの計画でも支障はありませんが、大人数が参加する修学旅行の場合などは綿密な計画を立てなければ成功するはずありません。
システム開発のプロジェクトは多くのステークフォルダーが関係するものです。確かにプロジェクトの進行により状況が変わることで、計画の見直しがたびたび発生するかもしれませんが、得られる情報を元に詳細化できるものは、できるだけ早い段階で計画を詳細化しておく必要があるのです。システム開発のプロジェクトにおける「段階的詳細化」を行うにあたって、この「得られる情報が増え、より正確な見積りが可能になるにつれ」という部分を理解しているかどうかで、効果的な先手管理ができるかどうかが決まって来ることになります。
「段階的詳細化のポイントを見誤ると、プロジェクトの効果的な先手管理ができない!」
ご納得頂けたでしょうか?
それでは、次回もお楽しみに! < 前回 | 目次 | 次回 >
工藤武久
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※1 Project Management Institute, Inc.(2013)『プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOK®ガイド)』(第5版)Project Management Institute, Inc.