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今回はミュージカルとプロジェクトマネジメントのコラボに挑戦です!といっても、ドラマやアニメなどのフィクションをPMBOKの切り口で語ることは、『空想プロジェクトマネジメント読本』などで既に行われています。(※1)
今回取り上げるのは、世界的に有名なミュージカル『オペラ座の怪人』です。天才であり、魔術師でもある怪人は、相当なマネジメント力も兼ね備えていたはずです。その怪人が手塩にかけてプリマドンナに育てあげたクリスティーヌを、なぜ自分のものにできなかったのでしょうか?(※2)
PMBOK第5版による10個の知識エリアの視点で、オペラ座の怪人による「クリスティーヌ強奪プロジェクト」失敗の原因を検証してみます。(※3)
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生まれつき醜い顔の怪人は仮面をかぶり、パリ・オペラ座の地下に住み着いていた。オペラ座の寄宿生であった少女クリスティーヌに目をつけた怪人は、夜な夜な枕元でささやきかけるなど、自分だけのプリマドンナに仕立てるために、ひそかに歌を教え続けていた。
そんな中、怪人の影に悩まされていたこともあり、オペラ座の経営が悪化したことで、新しい支配人とスポンサーが入ることに。この若いスポンサー(ラウル)は、クリスティーヌの幼なじみで、大人になったクリスティーヌの歌声を聞き、恋に落ちることに。
これに激怒した怪人は、クリスティーヌ強奪計画をたて、自ら作ったオペラを上演させ、自ら舞台に立ち、クリスティーヌとデュエットを歌った後、自らのアジトに連れ去るところまでは計画通り進んだようだった。しかし、土壇場でのクリスティーヌの思いもよらぬ行動に、怪人は計画を断念し、雲隠れすることに。。。
あと一歩というところまで来ておきながら、怪人はなぜそれを断念せざるを得なかったのでしょうか?私なりに想像をふくらませつつ、PMBOK第5版による10個の知識エリアの視点で怪人のプロジェクトマネジメントを評価してみましょう!
なお、それぞれの知識エリアごとに、5点満点で評価してみます。
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<プロジェクト・ステークフォルダー・マネジメント> 4点
PMBOK第5版から新しく登場した知識エリアです。プロジェクト目標の達成に影響を与えるステークフォルダーを選定し、その影響力を分析し、対応を計画して、プロジェクトへの影響をコントロールしていくものです。
怪人のステークフォルダー・マネジメントは見事です。オペラ座の支配人、歌手たち、ライバルのラウルなどのステークフォルダーそれぞれに対して、うまく立ち回れていると思います。恐怖心をあおって金を巻き上げたり、邪魔者は消し去ったり、ラウルとの対決でも最後は完全に命を手中にしていました。
肝心のクリスティーヌへの対応は、最初のうちはうまく行っていたのですが、少しづつ怪しくなり、最後は立場が逆転(逆にコントロールされてしまうことに!)してしまいます。
<プロジェクト・コミュニケーション・マネジメント> 5点
怪人はオペラ座の中で起きている全ての情報を入手できています。自ら発する情報は、封書で支配人や各登場人物に対して、実に見事なタイミングで渡しています。怪人の意図したコミュニケーション計画による運営ができていたという意味では完璧です。
<プロジェクト・タイム・マネジメント> 4点
たとえば仮面舞踏会を狙った効果的なタイミングで登場するところなどを見ると、きっちりとタイム・マネジメントもできているように思えます。ただ、ラウルが登場した後のドタバタは、課題発生時のリスケジュールの検討が少し不十分だったかもしれません。
<プロジェクト・コスト・マネジメント> 5点
恐怖心をあおることで、元の支配人から毎月高額のサラリーを巻き上げることに成功しています。用心深い怪人のことなので、おそらく巨額の財産を蓄えており、プロジェクト目標を達成するために十分なコストバッファがあったと考えられます。
<プロジェクト・調達・マネジメント> 5点
豊富な資金源を元に、プロジェクト目標を達成するために必要な資材は十分保有されていたことが想像できます。楽器や照明(ろうそく)、クリスティーヌの等身大人形など、必要なものは不自由なく手に入れていたように思われます。
<プロジェクト・品質・マネジメント> 5点
このプロジェクトの重要な成果物でもあるクリスティーヌは、怪人の要望した通り、美しく、誰からも認められる歌唱力を身に着けるまで成長させています。また、自作のオペラに自ら出演し、クリスティーヌと二人で歌うシーンは、ライバルのラウルですら圧倒されるぐらい、質の良い音楽と演技です。
<プロジェクト・リスク・マネジメント> 3点
最後の場面で、武装警官たちが怪人のアジトまで追ってきても、いとも簡単に行方をくらませるなど、リスク対策は万全です。クリスティーヌが宿舎を抜け出して、一人で父の墓所に向かったところを狙う場面などは、しっかりと好機の活用を図っています。
ただ、クリスティーヌの思いもよらぬ行動までは、リスクとして識別できていませんでした。
<プロジェクト・人的資源・マネジメント> 評価対象外
このプロジェクトは怪人が一人で実行しているため、この項目は評価対象外です。
<プロジェクト・統合・マネジメント> 2点
統合・マネジメントは、プロジェクトマネジメント全体の計画立案や、全てのマネジメントプロセスを統合的に管理するものです。コスト、スケジュール、品質、スコープといったプロジェクト目標間のバランスを取りながら、プロジェクトをコントロールしていくことも統合・マネジメントの範囲です。
これまで見てきたように、コストや品質やタイムのマネジメントは素晴らしいものです。しかし、最後の最後まで、怪人が一体何を求めていたのか?プロジェクト目標がどうもぶれているように感じます。クリスティーヌを力づくで奪うことが目標であれば、物語の最初の方で、もっと簡単に奪うことができたはずです。クリスティーヌの心まで奪うことが目標だとすると、怪人のアプローチにはあまりにも無理があります。
つまり、プロジェクト目標間のバランスという意味では、肝心のスコープが定まらない状態であり、統合・マネジメントとしては不十分であったと言わざるをえません。
<プロジェクト・スコープ・マネジメント> 0点
スコープ・マネジメントは、プロジェクトに何が含まれていて、何が含まれていないかを明確に定義して、定義されたスコープにもとづいて運営することで、プロジェクトを完成させるものです。
統合・マネジメントで見たように、怪人のプロジェクト目標は大きくぶれています。つまり、スコープの定義が出来ていなかったと言わざるをえません。スコープが定義できていないプロジェクトは、いくらコスト、スケジュール、品質などがマネジメントされていたとしても、失敗する可能性が非常に大きいということがわかります。
システム開発でも、プロジェクト目標やスコープが明確でなければ、カットオーバー直前まで順調に行っていても、いざ本番稼働しても誰にも使われないシステム(動かないコンピュータ)になってしまう可能性が大きいと言えるでしょう。
「プロジェクト目標やスコープの定まらないプロジェクトは迷走する!」
さあどうでしょうか?プロジェクト目標やプロジェクト・スコープを明確にすることの大切さが、「オペラ座の怪人」のマネジメントを分析する中でも垣間見ることができましたよね!
それでは、次回もお楽しみに! < 前回 | 目次 | 次回 >
工藤武久
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※1 司馬紅太郎監修(2005)『空想プロジェクトマネジメント読本』技術評論社
※2 「オペラ座の怪人」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』
2014年1月25日 (土) 18:03 UTC
http://ja.wikipedia.org/wiki/オペラ座の怪人
・日経エンタテイメント!別冊(2013)『劇団四季 オペラ座の怪人 25周年メモリアルブック』日経BP社
※3 Project Management Institute, Inc.(2013)『プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOK®ガイド)』(第5版)Project Management Institute, Inc.