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前回は「プロジェクト全体リスク」を現実のプロジェクトでどのように扱うか、いわば「木だけではなく、森を見るリスクマネジメント」の具体例をいくつか紹介しました。「個別リスク」と「プロジェクト全体リスク」という二つの視点を持つことで、プロジェクト・リスクマネジメントの目的を明確に意識することができるのではないでしょうか。
今回はプロジェクト・リスクに関するもうひとつの大きな疑問である「プラスの影響」について考えます。
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PMIから発行されている『プロジェクト・リスクマネジメント実務標準』には、「プロジェクト・リスクの定義は、プロジェクト目標にマイナスの影響を与える不確実な事象とともに、プラスの影響を与える事象も含む。これらふたつのタイプのリスクをそれぞれ脅威と好機と呼ぶ。統一的なプロジェクト・リスクマネジメントのプロセスの中では、脅威と好機の両方に取り組むことが重要である。」と書かれており、リスクによる「プラスの影響」に関してマネジメントする必要性を強調しています。(※1)
しかし、私がこれまでに携わったプロジェクトにおいて、リスク一覧表に「プラスの影響」を与えるリスク=「好機」について取り上げたものを見たことがありません。
また、世の中に出回っているプロジェクト・リスクマネジメントに関する書物やWEBに公開されているさまざまな記事を見ても、概ね「マイナスの影響」を与えるリスク=「脅威」への対応を中心に説明されており、「好機」の扱いについてはほとんど触れられていないのが実情です。
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図1は、当ブログの「【第12回】プロジェクト・リスクとは何か?」で登場したプロジェクト・モデルにおける「個別リスク」の定義から、「プラスの影響」をカーテンで隠したものです。(※2)
さあ、いったい何が起きるでしょう。この図から想像できることは、「個別リスク」はプロジェクト計画に対して下振れの影響しか及ぼさないため、その「個別リスク」が完全に無くならない限りプロジェクト計画通りには行きません。
同じように、プロジェクト・モデルにおける「プロジェクト全体リスク」の定義からプラス側の振れ幅を隠してみます。(※3)
うーん、何かものすごく危険な薫りがプンプンただよってきますねえ。
さあ困った。この図から想像できることは、プロジェクトの最高の結果がプロジェクト・ゴールの達成であり、少しでも何かが起きればプロジェクト・ゴールは達成できないことになります。まるで甲子園への道・プロジェクトのように、地方予選のトーナメント全試合を確実に勝ちあがらないとゴールが達成できないといった、ものすごく遠い道のりに感じます。
現実にはどんなにプロジェクト・リスクマネジメントをがんばっても、全てのリスクが完全に無くなることはないはずなので、このままではプロジェクトが成功するはずありませんよねえ!
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この状況でプロジェクトの成功確率を上げるためには、どうしたら良いでしょうか?
<対応策1> あらかじめ十分なリスクバッファを積め!
これが最もオーソドックスな対応ですね。プロジェクト計画時に、「プロジェクト全体リスク」を定量的に算出することで、プロジェクト目標であるスケジュールやコストについて一定のバッファを積みます。バッファを積むことで、プロジェクト最終結果の振れ幅の上限が、実際のプロジェクト・ゴールよりも上方に上がるため、その結果、確かにプロジェクトの成功確率は高まることになるでしょう。
このようなプロジェクトバッファを効果的に活用するために、TOC/CCPMなどの手法も取り入れながら、プロジェクトをマネジメントしていくことになります。(※4)
しかし、現実のプロジェクトにおいて、リスクバッファを十分に積むことはそんなに簡単にはできません。どんなものに対しても「早く、安く、うまく」が求められる世の中です。プロジェクト・スポンサーに見積りを提示する前に、上司や営業担当にとことんバッファを削られてしまうリスクが高いかもしれません。リスクバッファを削られるリスクの対策として、せっかく洗い出した重要なプロジェクト・リスクを隠ぺいする(バッファを隠す)なんてことも起きるかもしれませんね。このように隠ぺいされたリスクは往々にしてプロジェクト実行段階で忘れ去られることで、リスクのモニタリングが不十分となり大怪我を招くような、それこそ「重大リスク」になるでしょう。
<対応策2> リスクのあるプロジェクトはやめてしまえ!
「個別リスク」を徹底的に洗い出し、「プロジェクト全体リスク」を定量的に算出してみたら、スポンサーには受け入れがたいリスクレベルだったとすると、そのプロジェクトはキャンセルという手段も、もちろんあります。
その意志決定のために「プロジェクト全体リスク」を「見える化」するのでしょう。そうすればリスクの高いプロジェクトは減り(やめてしまうので!)、その結果、確かにプロジェクトの成功確率は上がることになるでしょう。
しかし、そんなマイナス思考では、この不確実性の時代は生き延びて行けないでしょう。そんなマイナス面だらけのプロジェクト診断結果は、経営層はまともにとりあってくれないかもしれません。マイナス面だらけの診断結果が出ないように、「プロジェクト全体リスク」のマネジメントが形骸化するなんてことも起きるかもしれませんね。そんなことが起きれば、ますます「プロジェクト・リスクマネジメント」の効用が疑われて、誰もリスクには見向きもしなくなるか、プロジェクト・リスクマネジメントのプロセス形骸化が進むでしょう。
<対応策3> 「脅威」と「好機」の両方にバランス良く取り組め!
こうして見てくると、『プロジェクト・リスクマネジメント実務標準』に書かれているように、「統一的なプロジェクト・リスクマネジメントのプロセスの中では、脅威と好機の両方に取り組む」、すなわちリスクの定義から「プラスの影響」のカーテンを開けることで、もっと前向きにプロジェクトを進めることができるのではないでしょうか。
「好機」をうまく活用することでコスト削減やスケジュールの前倒しができれば、「脅威」に備えるためのバッファをプロジェクト実行段階で確保することができます。
また、「プロジェクト全体リスク」の定量評価の際に、「プラスの影響」についても含めて考えないと、本当の意味でのプロジェクトの最終結果の振れ幅は算出できないはずです。
トム・デマルコ氏の推奨する「リスク図」には悲観値だけではなく、楽観値も加味されているので、「プラスの影響」についても考慮されていると考えて良いでしょう。
「プロジェクト・リスクマネジメントの重要成功要因は、『脅威』と『好機』をバランス良く取り扱うことである!」
しかし、プロジェクト目標に「プラスの影響」を与えるリスク=「好機」にはどんなものがあるのでしょうか?次回は、この「好機」の具体例について取り上げます。
それでは次回もお楽しみに! < 前回 | 目次 | 次回 >
工藤武久
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※1 前掲『プロジェクト・リスクマネジメント実務標準』
※2 「個別リスク」の定義については、当ブログの「【第12回】プロジェクト・リスクとは何か?」を参照
※3 「プロジェクト全体リスク」の定義については、当ブログの「【第13回】個別リスクとプロジェクト全体リスクという二つの視点」を参照
※4 TOC/CCPMについては、「ITの達人」井阪宣之氏がわかりやすく解説しているので、そちらも参考にしてください。
「サルでもわかるTOC/CCPM」