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前回はマルクス唯物史観とCMMIを重ねた上で、社会や組織の「発展」や「成熟」モデルを「進化」ととらえてはどうかと問題提起しました。かなり話がややこしくなってしまいましたので、今回はもっと身近にプロ野球の名将たちのマネジメントスタイルについての考察です。マネジメント=管理・野球と言えば、広岡達郎氏や野村克也氏などがすぐに思い浮かびます。中日ドラゴンズを53年ぶりの日本一に導いた落合博満氏による独特な「采配」=マネジメントも注目されました。
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プロ野球の名将による采配を組織のマネジメントと重ねることは、もう既に行われていますよね。言うまでも無くプロ野球の各球団には優勝という目標があり、監督・コーチ、選手、球団経営者、観客などのステークホルダーが存在し、毎年チーム状況は異なるなどの独自性もあり、プロジェクトとしての特性を数多く持っています。
プロジェクトの特性に「有期性」がありますが、プロ野球の場合はプロジェクトの開始・終了はどの時点と考えるのが妥当でしょうか?
<候補1> 毎年のペナントレース開幕から日本シリーズ終了まで
<候補2> 毎日行われている1試合1試合の開始から終了まで
<候補3> 新監督が就任して優勝争いができる球団にするまでの数年間
プロ野球の場合は、候補1のペナントレースまたは日本シリーズで優勝することを目標としたプロジェクトととらえるのが最もオーソドックスですね。そうとらえた場合、日本シリーズで優勝することがプロジェクトの成功なので、その成功確率はとても低いものとなります。毎年12球団のうち1球団しか日本シリーズで優勝することができないので「プロ野球・プロジェクト」の成功確率は12分の1=8.33%です。世の中のシステム開発プロジェクトの成功確率は30%程度なので、その3分の1以下の確率です。そう考えると「プロ野球・プロジェクト」のPMである監督たちは、システム開発プロジェクトのPMよりも、ずっとハードな職業だということが想像できますよね。
候補2の1試合1試合をプロジェクトとしてとらえる見方はどうでしょう?試合に勝つという目標、さまざまなステークホルダー、さらに1試合1試合で選手やグランドのコンディションも異なるなどの独自性、試合開始から終了という有期性もあるので、1試合1試合をプロジェクトとしてとらえてもおかしくないでしょう。高校野球のようにトーナメントの場合は、負けたら即優勝の可能性が無くなるので、1試合1試合をプロジェクトの単位としてとらえて采配(マネジメント)する意義も大きくなります。仮にプロ野球の1試合を1プロジェクトとしてとらえた場合、ペナントレースや日本シリーズはプログラム(プロジェクトの集合体)としてとらえることができるでしょう。
最後に候補3です。今回取りあげるプロ野球の名将たちは、いずれも「就任してから数年以内で優勝争いができるチームにすること」を目標としています。具体的なプロジェクト目標としては、「3年以内に優勝」とか「5年のうち3回以上は2位以上」という設定になるのでしょう。候補3もプロジェクトとみなして良さそうですね。
そうです!候補1~3のうちどれが正解ということはなく、プロ野球をプロジェクトという切り口でとらえる場合、いろいろなモデルを描くことができるのです。それらの「プロ野球・プロジェクト」モデルにおいて、プロジェクトマネジメント(管理・采配)の視点からいろいろなことを考察することが可能なのです。
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それでは冒頭でとりあげた3人の名将たちの管理スタイルを考察してみましょう。
広岡達郎氏「管理野球」・・・ヤクルトに初優勝をもたらし、西武黄金時代を築いた名監督です。その手法は当時「管理野球」としてとりざたされました。その管理の徹底ぶりはグラウンド内だけでなく、選手の私生活(飲酒や喫煙等に関して)までおよび、いろいろ批判はありましたが、ヤクルトや西武を常勝球団に仕立てあげた手腕は見事なものでした。(※1)
CMMIの成熟度レベルで言えば、レベル3の「定義された状態 (制度化された状態)」を実現したと見ることができるのではないでしょうか?
野村克也氏「ID野球」・・・広岡氏が去ってから弱小球団に戻ったヤクルトを再び優勝争いができる球団に再生しました。その手法は「ID野球」と言われています。野村克也氏のイメージは徹底したデータ分析に基づいたアイディア野球です。誰も思いつかないような戦術を駆使し、使えるものはマスコミさえも利用して相手チームの主力選手のペースを乱すというアプローチまで試みます。それは単なる思い付きではなく、相手チームのデータを徹底的に(定量的に)分析した上で、勝つために考えぬかれたアイディアをぶつけてくるのです。(※2)
CMMIの成熟度レベルで言えば、レベル4の「定量的に管理された状態 (計測できる状態)」を実現したと見ることができるのではないでしょうか?
落合博満氏「オレ流野球」・・・現役時代から独自の練習方法を取り入れるなど、セオリーを覆した野球感を持っている印象です。中日ドラゴンズを常勝球団に仕立てあげたその管理スタイルも独特のように思われたので「オレ流野球」と言われています。しかし、本人に言わせればどれも模倣のようです。。。落合博満氏の管理スタイルの中で私が最も注目するのは、そのポーカーフェイスの理由です。ホームランやファインプレー等の個々のプレイに一喜一憂せず、常に冷静沈着な態度を崩しませんでした。その理由とは、個々のプレイに監督が喜怒哀楽を示すと選手たちが監督の顔色を気にしながらプレイするようになるからです。落合「オレ流野球」とは、監督の顔色を見てプレイするのではなく、選手たちが「自発的に」プレイを改善するようになることを狙ったのです。(※3)
CMMIの成熟度レベルで言えば、レベル5の「最適化している状態 (プロセスを改善する状態)、継続的に自らのプロセスを最適化し改善しているレベル」を目指したと見ることができるのではないでしょうか?
これら3人の名将たちのアプローチ方法は異なりますが、「こうすれば優勝争いができる球団にできる!」という信念を持っていたはずです。その信念に基づくマネジメントにより常勝球団を作るというプロジェクトを成功に導いたのです!
「プロ野球名将たちのアプローチ方法は異なるが、信念に基づくマネジメントが成功への鍵となる!」
プロ野球の名将たちの管理スタイルを考察してみると、プロジェクトマネジメントのスタイルや手法以前に、「こうすればプロジェクトは成功するはずだ!」という信念が大切だと言うことに改めて気づかされます。システム開発を行う組織においても、その組織がCMMIのどの成熟度レベルであっても、「こうすればプロジェクトは成功するはずだ!」という信念が無ければ成功に導くことができないのではないでしょうか?
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ちなみにレベル2はドジャーズ戦法を取り入れ反復プロセスで巨人をV9に導いた川上哲治氏、レベル1は勘ピュータの長嶋茂雄氏や仰木マジックと言われた仰木彬氏あたりでしょうか。。。
それでは次回もお楽しみに! < 前回 | 目次 | 次回 >
工藤武久
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※1 「広岡達郎」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』
2013年7月14日 (日) 09:21 UTC
http://ja.wikipedia.org/wiki/広岡達郎
※2 「野村克也」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』
2013年7月31日 (水) 14:16 UTC
http://ja.wikipedia.org/wiki/野村克也
※3 「落合博満」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』
2013年8月6日 (火) 06:59 UTC
http://ja.wikipedia.org/wiki/落合博満
・落合博満(2011)『采配』ダイヤモンド社