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前回はマックス・ヴェーバーの「理念型」という概念と、その具体的な成果である「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」についてご紹介しました。今回は「科学的社会主義、共産主義の祖」とされるカール・マルクスが登場します。今回のテーマは国家や社会の発展段階モデルとシステム開発の組織成熟度モデルについての考察です。
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まずは社会の発展段階モデルについてご紹介します。
カール・マルクスの「唯物史観」について、ウイキペディアから引用してみます。(※1)
「唯物史観は、(中略)19世紀にカール・マルクスの唱えた歴史観である。その内容は、人間社会にも自然と同様に客観的な法則が存在しており、無階級社会から階級社会へ、階級社会から無階級社会へと、生産力の発展に照応して生産関係が移行していくとする歴史発展観である。」
マルクスは社会の発展段階として、次の五段階をあげています。
(1)原始共産主義的
(2)奴隷制的
(3)封建的
(4)資本主義的
(5)共産主義的
原始共産主義的段階では人類は狩猟生活を行っており、国家や階級という概念もなく、みんなで平等にものを分け合っていた社会。生産性の発達に従って階級が生まれ、奴隷制~資本主義という発展段階を経て、最終的には再び国家や階級という概念を乗り越えて、真の平等社会である共産主義的段階に進むという考え方です。
しかし、実際の歴史はそのようには進まなかったようです。ミハイル・ゴルバチョフのペレストロイカ(改革)とグラスノスチ(情報公開)の大改革により、ソビエト社会主義共和国連邦は崩壊へと進みます。その後、東西冷戦の象徴ともいえる「ベルリンの壁」崩壊の際、ベートーヴェンの第九交響曲により、再び世界平和の歓喜を世界中の人々が感じていました。まさに歴史は繰り返しますねえ。。。
もうお分かりの通り、マルクスの示す社会の発展段階は、CMMIの成熟度モデルとほとんど同じでは無いですか!
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こちらもウイキペディアから引用します。(※2)
「能力成熟度モデル統合は、組織がプロセスをより適切に管理できるようになることを目的として遵守するべき指針を体系化したものである。CMMIは、もともとは能力成熟度モデルとして開発された。」
そして、その成熟度レベルは次の五段階です。
(1) 初期状態 (混沌とした、いきあたりばったりで、一部の英雄的なメンバ依存の状態)。成熟したプロセスを導入する際の、出発点のレベル
(2) 管理された状態 (反復できる状態、プロジェクト管理・プロセスの規則の存在)、反復してプロセスを実行できるレベル
(3) 定義された状態 (制度化された状態)、プロセスが標準ビジネスプロセスとして明示的に定義され関係者の承認を受けているレベル
(4) 定量的に管理された状態 (計測できる状態)、プロセス管理が実施され、さまざまなタスク領域を定量的に計測しているレベル
(5) 最適化している状態 (プロセスを改善する状態)、継続的に自らのプロセスを最適化し改善しているレベル
こちらも混沌とした初期状態から、何段階かの管理された状態を経て、最終的には自発的に継続的改善が進む組織に発展していきます。マルクスの唯物史観と実に似ていると思いませんか!
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さて、ここからが本題です。どちらも段階があがるたびに社会や組織が発展していくというモデルとして描いています。しかし本当にそうなのでしょうか?社会や組織の形態に最終形というものがあるのでしょうか?歴史上の事実としても、マルクス唯物史観による共産主義的段階は実現されていませんし、社会の最終段階が共産主義であるとはすでに思われなくなっています。
同じようなことが、CMMIの成熟度レベルの方でも言えないでしょうか?自発的に継続的改善が進む状態は、ある意味定義されたプロセスが無い状態、つまり、成熟度レベル1と似たような状態とも見ることができないでしょうか?
いえいえ、何もCMMIの成熟度レベルの考え方が間違っていると言いたいわけではありません。唯物史観やCMMIの成熟度モデルは、国家社会やシステム開発を行う組織を研究する上で有効なモデルです。それらのモデルに基づき、より良い国家社会や組織への移行を加速させ、世界の発展や世の中のプロジェクト成功率の向上につなげようという前向きな理論であり、重要な気づきであることに間違いはありません。
何が言いたいかというと、CMMIの成熟度レベルが高ければプロジェクトの成功率が高まることは確かに事実だと思いますが、現実の組織においてプロジェクトの成功率を高めるのはCMMIの成熟度レベルを上げることだけが解決策では無いのではないでしょうか?
たとえば、組織としての標準が無かったとしても、プロジェクトメンバ全員が高度な技術的スキル、業務的スキル、マネジメント能力を持っていれば、プロジェクトの成功確率が高いはずです。しかも、そのメンバたちが毎回プロジェクト体制を組むことができるとすれば、自発的な継続的改善も難なくできるでしょう。⇒CMMI:レベル1相当
すなわち、唯物史観や成熟度レベルの各段階やレベルは発展の一過程としてとらえられるだけではなく、それぞれの社会や組織の特徴ととらえることができるのです。プロジェクトの成功確率を高めるためには、各組織の特徴をとらえた組織モデル(前回ご紹介したマックス・ヴェーバー言うところの「理念型」)において、それぞれ別々のアプローチが必要なのではないでしょうか?CMMIレベル1相当の組織においては、CMMIレベル3相当の組織で行われるアプローチが必ずしも有効であるとは限らないのではないでしょうか?(※3)
「CMMI成熟度モデルの各レベルに応じて、
プロジェクト成功へのアプローチは異なる!」
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かなり話をややこしくしましたが、さらにややこしくします。マルクスの唯物史観やCMMIの成熟度モデルの各発展段階やレベルが、必ずしも一方向への「発展」では無いとすると、別なモデルは無いだろうか?
そうだ!ダーウィンの進化論がしっくりくるではないか!(※4)
すなわち、唯物史観やCMMIの社会や組織の各段階のモデルは、一方向に発展していくものではなく、それぞれが独立したモデルとして存在し、今後新しいモデルが突然変異のように出てくる可能性もある。そんな中で、年月の流れに従って、世の中の潮流や各組織モデルでのプロジェクトの成功確率などによって、いくつかのモデルは絶滅し、いくつかのモデルが残されていく。そして、その時代に最適なモデルが自然淘汰で残されていくのだ!だ・だ・だ・だ!
それでは次回もお楽しみに!。◇ < 前回 | 目次 | 次回 >
工藤武久
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※1「唯物史観」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』
2013年5月8日 (水) 05:29 UTC
http://ja.wikipedia.org/wiki/唯物史観
※2「能力成熟度モデル統合」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』
2013年5月7日 (火) 00:53 UTC
http://ja.wikipedia.org/wiki/能力成熟度モデル統合
※3 ソフトウエア開発組織の発展段階については、次の文献が興味深い。
・G.M.ワインバーグ 大野徇郎監訳(1994)『ワインバーグのシステム思考法 ソフトウェア文化を創る〈1〉』共立出版
※4「進化論」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』
2013年7月11日 (木) 19:03 UTC
http://ja.wikipedia.org/wiki/進化論