「情」と「技術」の両立が、美しいデザインを生み出す。
昨今のIT環境は、多様で複雑になった。ユーザーの要求を上手に聞き出せたとしても、ITソリューションの方法を知らなければ、狭い経験だけを頼りにした高コストで時間のかかる再構築中心の手法を選択することになる。
また、ベンダーの新しい提案を安易に採用して、目指すシステムが実現できず、痛い目に遭うこともよくある。いずれにせよ、過剰なリスク回避策や無謀な積極策の実施は好ましいことではない。次世代のITソリューションの特徴と採用の判断力をもち、ビジネスとITをつなぐことができる人材が、成功のカギを握る。
重要なことは、ビジネスの本質の理解とITによる最適なソリューションに関して、理想と現実の調和と整合性をどの様に取っていくかということである。ビジネスとITを考え抜き、新しい方法でデザインし繋いでいく仕事こそが、ITアーキテクトの仕事である。
しかしながら、現在の日本では、アーキテクトというと設計でしょ、と狭く限定された仕事であるかのように誤解されている。確かに、高い技術力と経験・ノウハウを持っていることはITアーキテクトの必要条件であるが、十分条件ではないのである。技術力さえあればできるというものではない。
ITアーキテクトの仕事で重要なことは、高い理想とビジョンを持ち、「美しいシステムのデザイン」を目指すことなのであって、システムの設計ということで片付くようなものではない。
また、美しさを実装するためのリーダーシップと、しつこいまでの拘りを持つことも必要である。理想を持ち、美しさを追求することにより、シンプルで機能性に富むシステムが創造されるのだ。
建築、土木、航空機、鉄道、自動車などの世界では、「美しいデザイン」という言葉が、一般的に使われている。例えば、有名な建造物は、すべて美しい。そして、その世界にはアーキテクトが当たり前に存在している。同様に、システムのデザインでもまた「美しい」という概念とアーキテクトの存在が必須である、と私は考える。
では、人は何をもって「美しい」と感じるのだろうか。私は、それは人の「情」ではないかと思う。人の「情」が、「美しい」のか「美しくない」のかを決める。「情」は計算では求めることが出来ないし、どのようなものか言葉にもし難いが、確かにそこにある、というのはお判りいただけるのではないかと思う。
そして、「美しい」という価値や魅力があるからこそ、我々は長期間、苦労をしてプロジェクトを進め、達成する喜びを感じる。プロジェクトへの情熱や高いモチベーションを保ち続けられるのだ。
ITアーキテクトのプロフェッショナルとしての仕事は、理論と経験に裏付けられたITの高い実務力・技術力の上に、
即ち、「情」と「技術」の両立が、美しいデザインを生み出す鍵である。