今回は、ITアーキテクチャを学ぶ方法を解説する。
ここ20年間に、ITの適用範囲は、多様化した。これは、単にITの応用分野だけを意味するものではなく、IT環境が進化したために、「ビジネスの枠組みが先に決まり後から最適なITを適合する」という従来お決まりだったパラダイムが崩れ始めているというのが大きな特徴ではないだろうか。いいかえると、「先に特定のIT環境が決まり、その環境に適合したビジネスを創造する」といったケースが当たり前の世界になったのである。
アマゾンやセールスフォース、楽天などの企業の成功例は、従来のビジネスとITの関係を覆すものだ。クラウド・コンピューティング、ITサービスセンター、モバイル・コンピューティングなどの新しい概念やテクノロジーが、ビジネス創造に大きなインパクトを与えている。また、従来型のITシステム構築方法をより発展させた自動化ツールとプロセスを連動させた改良型のモデルベース開発方法論、SOAの実現、フレームワークの進化など、IT分野でのソリューション構築は多様で複雑化している。更に、セキュリティ、ガバナンスへの配慮も重要なIT要件になっている。
このように大きな環境変化が起こっているときには、その大きな変化に適合したITアーキテクトが必要不可欠なものなのだが、果たして我々の周りにそんなITアーキテクトが存在、あるいは活躍しているのだろうか?存在しなければ育てなければならないが、世の中はそういう認識になっているのであろうか。ITアーキテクト育成の必要性が切迫したニーズだと認識されているのだろうか。
私は、現在の閉塞したITの環境の中でのブレークスルーは、ITアーキテクト養成が鍵を握ると思っている。しかし、どれほどの方がその必要性に気が付いているのであろうか。アーキテクチャを体系的に理解し、必要十分な技術力を持ち、ビジネスを俯瞰的に視野におさめながら、複雑に交錯する要求や観点を適確かつ合理的に、最適な結果が得られるように判断を下していく、そんなITアーキテクトを養成することは、まさに喫緊の課題なのである。
ITアーキテクトとは、
「ITアーキテクトとは、複雑で、品質が高く、美しい情報システムを構築するためのITアーキテクチャ(ビジネスとシステムデザインそのもの)と、実現するための工法(システム化方法論)をデザインする総責任者である。」
この役割は、システム開発の根幹であり、プロジェクトの成功に対して最も重要であると私は考えている。建築の世界にあてはめると、「建物のデザインと工法」が、ITアーキテクトの役割であり、「施工」の責任者は、プロジェクトマネジャである。複雑なシステムでは、基本的に、PMがアーキテクトを兼任し実行することは困難なのである。また、ITアーキテクトの役割は、単体のプロジェクト内での役割を超えて、企業全体のITアーキテクチャのデザイン・構築にまで及んでいる。この役割は、建築の世界でいえば、都市全体のデザインを示している。
それでは、どのような枠組みでITアーキテクトを養成したら良いのだろうか。その役割、専門領域、スキルの柱について解説しよう。
1.役割
ITアーキテクトの役割は、エンタープライズ・レベルでのITアーキテクチャ全体に責任を持つことである。
2.専門領域
ITアーキテクチャの専門領域は、4分類される。
の4つの専門分野に分類する。目標とするビジネスとITの仕組みを実現するために4つの専門分野について、アーキテクチャの定義と適切な開発プロセス(開発方法論)をデザインする。
3.スキルの分類
4つの専門分野について、ここに説明している5つのスキルを養成する。これらのスキルを、机上で身に付けることは、できない。適切なケーススタディを組み込んだトレーニングと、実際のプロジェクトで実践することと、高いスキルのITアーキテクトのコーチングが、アーキテクトのスキルアップを助ける。
また、様々な経験を持ったプロフェッショナルとしてのアーキテクト同士の交流会やワークショップが、ITアーキテクトとして高いレベルを目指す上での動機づけ、モチベーションアップ、自信構築に繋げることができ、大きな力になるだろう。個人のスキル向上とプロフェッショナルのネットワークの両面を大切にすべきであると、私は考えている。
(世界的なITアーキテクトの協会であるIASAが公表している知識体系を参考にした。www.iasaglobal.org)
以下の関連するバックナンバーも参考にお読みください。
2006年5月12日ITアーキテクトを世の中で認知された職業にしよう
https://www.it-innovation.co.jp/2006/05/12-185814/
2006年5月29日『ITアーキテクトへの道 その1』
https://www.it-innovation.co.jp/2006/05/29-190024/
2006年6月12日『ITアーキテクトへの道 その2』
https://www.it-innovation.co.jp/2006/06/12-190337/
2006年6月23日『ITアーキテクトへの道 その3』
https://www.it-innovation.co.jp/2006/06/23-192229/
2006年7月21日『ITアーキテクトへの道 その4』
https://www.it-innovation.co.jp/2006/07/21-192516/
2006年8月 4日『ITアーキテクトへの道 その5』
https://www.it-innovation.co.jp/2006/08/04-193010/