ここ数年、「PMO」という言葉が良く聞かれるようになりました。
企業の中でプロジェクト型の業務に日常的に関われていらっしゃる方であれば、少なからず耳にされたことがあるのではないでしょうか。
PMOとは「Project Management Office」の略で、組織の中で実行される各プロジェクトに「横串を通して」統括的な管理やサポートを行うための機能(または、部署やチーム)のことを指します。
複数プロジェクトを平行的に実行する難しさ
複数のプロジェクトが同時にいくつも実行されているような組織においては、特に経営層にとっては難しい問題がつきまといます。それは、各プロジェクトに対してどれだけ組織のリソース(人、物、金)を割り振るべきかという問題で、やはりなかなかに判断が難しいものです。
もし今後どのようなプロジェクトを実行するか全容が把握できていれば計画的なリソース割り当ても可能なのですが、顧客からの依頼で急遽プロジェクトを立ち上げなければならなくなったり、プロジェクトを進めているうちに深刻な問題が発生し追加のリソースを投入すべき場面もでてきます。
その時、他のプロジェクトから要員を引き抜いたり入れ替えたりといった調整が必要となるのですが、体制変更を求められる側のプロジェクトマネジャーにしてみると簡単には受け入れられないものです。
「せっかく順調に進んでいるのに、プロジェクトから今Aさんがいなくなるとマズいですよ。そもそも、なんであんなプロジェクトのためにウチからメンバー出さなきゃいけないんですか!」などと抵抗されるケースも良くあります。
リソースは限られているのですから、戦略的に見て重要性の高いプロジェクトに優秀な要員を配置したいところですが、個々のプロジェクトの事情を100%把握できている訳でもないため、そのように抵抗されると強く指示することもなかなかできません。
結果、優先順位の低い活動に多くのリソースが投入されることとなり、プロジェクトの成果をビジネスの成果に繋げることができなくなってしまうことが起こるのです。
経営層とプロジェクトの現場を結びつけ、戦略的にプロジェクトを進める
このような課題を解決する手段として脚光を浴びているのが、PMOの設置です。
組織的にどのような位置づけで設置するかについては様々な考え方がありますが、基本的にはPMOは経営レベルとプロジェクトの間に挟まるポジションに設置され、各プロジェクトの情報を集めて経営層に正確に伝達し、また経営層の下した判断をプロジェクト側の動きに確実に反映することが主な役割となります。
例えるなら、サッカーで海外から招聘された優れた監督と、才能溢れる(けど、ちょっと個人プレーに走りやすい)選手達を繋ぐ「コーチもできる通訳」みたいなもんでしょうか。
具体的には、PMOは各プロジェクトを常にモニタリングしており、それぞれの状況(例えば進捗に遅れはないか、品質上の問題が起こっていないか、コストが予定をオーバーしていないかなど)を把握して経営層に報告し、重大な問題やリスクがある場合には対応策を検討するために必要な材料を提供するのです。
そこで判断された結果、例えば要員や予算を追加するといった対応策が確実にプロジェクトで実施されたことはPMOによって確認されます(または、プロジェクトに対するリソース割り当ての権限をある程度PMO自身が保有しているケースもあります)。
サッカーで言えば、選手の調子をきめ細かく把握しながら逐次監督に伝え、また選手に対しては監督のビジョンや戦略を具体的な形で伝えて継続的にフォローする、というイメージでしょうか。
つまり、PMOの設置によって「ビジネスの戦略とプロジェクトの活動をリンクさせるとこと」が、よりスピーディで確実なサイクルによって実現されるという訳です。
とはいえ、効果を発揮するまでの道のりは長い・・・
設置したPMOがうまく機能するためには様々な前提もあります。
この前提が揃わない状態でPMOを拙速に動かしてしまうと、「あのコーチ兼通訳、本当に現場の状況を正確に分かっているの?」などと、選手たちの不信感を煽る結果にもなりかねません。そうすると、経営層の描くビジネス戦略とプロジェクト活動とを結びつけることがさらに困難になってしまいます。
まず、組織の中でプロジェクトの進め方や基本的な管理方法がバラバラであれば、プロジェクトの状況を外から正確に把握・評価することができません(2人がゴールの枠の大きさが異なるルールでサッカーやっている場合、両者のFWの得点数を比較してもあまり意味ありませんよね)。
そのため、プロジェクト管理にあたっての組織的なルールや標準手順などが整備されている必要があり、それを推進する機能をPMOが併せ持っている場合が多いのです(ゴールの大きさを統一しましょう、そうすれば本当に得点力の有るFW、無いFWを判断するための客観的な材料ができます)。
さらには、プロジェクトマネジャーの育成や外部からの獲得、もっと基礎的な部分でのプロジェクトマネジメントの重要性を社内に浸透させるための啓蒙活動をPMOの役割として担っている場合もあります。
このような多面的な取り組みを根気強く進めた結果によって成熟度の高いマネジメントが組織の中に実現される訳で、逆に考えればそこまで考えて取り組まなければ「監督と選手がすれ違い続ける」という状況からなかなか脱却することは難しい、ということでもあります。
「PMOは一日にして成らず!」
次回もお楽しみに。