ITプロジェクトは、その実施を決定する前に、実施目的を発注者企業側で決める「システム企画書」なるものが通常は存在します。このシステム企画書を作成するフェーズのことを、ここでは「IT構想・企画」とします。
このシステム企画書が無いままITプロジェクトを実施すると、多くの場合、要件定義フェーズにおいて、仕様を定めるための基本方針がユーザ個人の属人的な思いに委ねられてしまいます。その結果、要件定義は終わらず、ITプロジェクトは迷走してしまいます。
では「IT構想・企画」では、どのようなことを実施したら良いのでしょうか?
そのことに関し弊社では、システム企画書としてまとめる内容は、次のようなレベルが必要であると考えています。
・ 発注側企業において投資判断として社内決裁で出来るレベル
・ また同内容を基にして、システム開発部門もしくは開発ベンダーに対し、RFPとして提示出来るレベル
そのプロセスのイメージは次のとおりです。
ここで最も重要なことは“Why”、つまり何のためにこの企画を計画し実施する必要があるのかを明確にすることです。
その定義を行うためには、その企業のビジョンや経営戦略に基づくトップダウンからの要求である“1.1ビジネスの方向性を理解する”こと。そして現状およびその課題を確認するボトムアップからの要求である“1.2現行の業務・システムを把握する”こと。この両方から、現状(As-Is)と将来(To-Be)を定義し、そのギャップである要求を洗い出し・整理する“1.3業務・システムの要求を概括する”ことを行うことで、“Why”を明確にします。
BABOK®では、要求を次のとおり分類できると定義しています。
IT構想・企画を行う場合、企業のビジョンや経営戦略から来る、最上位の要求である“ビジネス要求”として定義した上で、その下位要求としてステークホルダー要求をひも付け、さらにその下位要求としてソリューション要求をひも付けることが重要です。なぜならば、企業における全ての取り組みは、会社にとって『付加価値のあるもの』である必要があるためです。
しかし現実的には、具体的にやりたいことが見えていることが多く、そのやりたいことの理屈付けとして、IT構想・企画を行うケースを良く見うけます。つまりソリューション要求を定義した上で、その理屈付けとしてステークホルダー要求、ビジネス要求をボトムアップでひも付けているのです。
ところがそのようなことを行っていると、真にその企業が今後存続して行くために必要なビジョンや経営戦略に与える価値をないがしろにしたIT構想・企画になりがちになります。そのようなプロセスを経て作成されたシステム企画書は、どんなに立派な内容を書けていても、その結果生み出されたシステムは、企業にとって不必要な機能、つまり不良資産を多く含んだ物となる可能性が高まります。
そのようなことにならないためにも、IT構想・企画における“Why”で、しっかりと企画の方向性を決めることが大切なのです。
なおBABOK®で定義している要求は、2010年5月25日に「プロフェッショナルであればこそ、価値ある仕事ができる。」というタイトルで配信したメルマガに記載しておりますので、下記URLをご参照ください。