さて、年間を通じて部下(後輩)を指導し、当人も能力開発に挑戦して来ましたので、最後にその結果を評価することを考えてみましょう。
ここで、ついついやってしまいがちな誤りが、能力開発のために立てた計画(行動)を達成したかどうかを評価の対象にしてしまうことです。
計画のときにも解説しましたが、能力開発は、まず「到達すべき目標を定める」、その後で「目標に到達するために何をやるのか決める」と解説しました。
能力開発は、「計画通りに行動すれば能力を獲得できなくても良い」ものではありません。
ですから、「立てた目標が達成できたかどうか」すなわち目標としていた能力を獲得できたかどうかを確認しなければなりません。
しかも能力を獲得したかどうかは、みただけでは分かりませんから、能力がある(と思う)か、いきなり話し合っても、個人の曖昧な感想のぶつけ合いになってしまいます。
目標設定の解説では「何ができるようになるのか」、「どのような問題、課題を解決するのか」など具体的に結果として測定(確認)できる事実で表現するようにアドバイスしました。
ですので、実際にそれを仕事の中でやり遂げたかどうか確認するのが、最も曖昧さの無い確認になります。
目標が曖昧だと、評価も曖昧になってしまいますので、評価する時のことを考えて、確実に仕事の中で実行され、確認可能な行動や成果で目標を表現するように心がける必要があるのです。
これは、何も人材育成に限った話ではありませんね。年間の業績目標の設定やプロジェクト計画の中での目標設定も同じことが言えるわけです。
この辺は、ベテランマネージャなら手馴れたところでしょう。ですので、人材育成が特別なことと考えずに、同じように指導すれば良いわけです。
ここでも先を急がずに、まず「きちんと評価する。」ことを考えます。
前回の記事でもアドバイスしましたが、いきなり上司(先輩)から感想を伝えたり、問題点を指摘したりするのはお勧めできません。
まず、当人が自分の目標の達成度合いをどのように評価するのか確認しましょう。
もし、上司(先輩)として目標の達成度合いに問題を感じていれば、それを当人が認識できているか確認できます。
ここでもし、意見が食い違うようなら、その点をきちんと解消する必要があります。
しかも、できることなら、一方的に上司から認識の違いを伝えるような形ではなく。
これはちょっと難しいですね。でも、できることなら本人が自分の問題に気付けるようにしたいのです。
“自分ではできているつもりだけど、上司がダメだって言うんだからしょうがない。”という精神状態になってしまうと、せっかく指導しても効果が期待できませんね。
ここをきちんとやろうとすると、1年の最後に途中の様子を思い出しながら指導するやり方では、あまりうまく行きません。
“そういえば、あの時はこんなところがうまく結果をだせていなかったよね。”と半年以上も前のことを指摘されても、そもそも当人が思い出せるかどうか分かりません。
“そんなことは無い。あれはこう言う理由があってうまく行かなかっただけで、私自身の問題ではない。”と反論されてしまうと、その後の指導はうまく行きそうにありません。
きちんと日ごろの指導を行って、問題があればタイミングよく指導しているなら、本人も自分の問題を認識できるはずですから、少しぐらい面倒でも、上司(先輩)としては、日ごろの観察と指導はとても重要だ、ということになります。
能力開発の結果をできるだけ具体的なもので評価する。当人の言動に問題があればタイミング良く指導する。
この二つがそろっていると、振り返りと評価がスムーズになります。
これは、能力開発だけでなく、業績評価に関しても当てはまることです。つまり、人事的な責任を持つ立場のマネージャに求められる基本姿勢と言えます。
さて、評価をすれば、当然、きちんと目標を達成できた時もあれば、そうでない時もあります。
達成できなかった時は“次は頑張ろう。”と励ましてあげてください。
・・・ではダメですね。
せっかくここまで指導してきて、うまく行かなかった時に「励ます」だけで終わってしまっては意味がありません。
というか、その時が一番の人材育成の機会と考えましょう。
実は、育成指導は、成功した時よりも失敗した時の方が指導の効果が期待できるのです。
(だからといって無理に失敗させる必要はありませんが)
さて、きちんと目標を達成できなかった時は、「どのように改善するか」まで持っていかなくてはなりませんが、この時いきなり改善方法を考えるのはちょっと待ってください。
改善は大事です。ですが、何をどう改善すべきか知るためには、そもそも何が悪かったかを知る必要があります。
そこで計画(目標を達成するために必要な行動)をきちんと実行できたかどうかを確認します。 “仕事が忙しくて計画した研修が受講できませんでした。”ということであれば、残念ではありますが、ある意味話は簡単です。
私がお勧めした計画立案のやり方を実践していると“私(上司)がやれと命令したのではなく、自分で提案した計画なのだから、主体的に計画を実行しよう。”という指導ができるのですが、それだけで終わらずに、部下が能力開発の時間を取れないほど仕事が忙しかったことは、上司として改善すべきではなかったか。も考えてみてください。(“忙しかった”を言い訳に使っている時もありますので、それは見逃さないようにしましょう。)
さて、計画はきちんと実行できたのに能力は思うように獲得できなかった。という事態も起こりえます。
この時は、もう一歩踏み込んで原因を洞察する必要があります。
一体何がいけなかったのでしょう。
(OJTも同じように確認できます)
それぞれに、改善方法は異なります。
原因によっては、人材像や教育プログラムを変更する必要があるかもしれません。当人の計画の立て方を改善するか、上司の指導方法を改善するか、組織としての人材育成の枠組み(人材育成のコンテンツやプロセス)を改善するか。原因に応じて改善の内容が変わります。
人材育成の枠組みは、一度作成したら終わりではありません。
やってみて始めて気付くこともあります。
気付いたならばためらわずに改善しましょう。
長い目で改善を続けながら人材育成を継続するというスタンスで取り組む必要があります。
そのことを指導する側もされる側も理解して人材育成(能力開発)に取り組むことが望ましいのです。
私は今まで、せっかく作った人材育成のコンテンツが一度も改善されないまま、誰からも利用されなくなってしまった事例を良く見かけてきました。
せっかく時間と労力を掛けて作っても、それでは意味がありませんね。
どうやら、始めから大きな改善を目論んで、高いハードルを越えられなくなるよりも、当面の重要なテーマから着手して、長期的に人材育成の仕組みを成長させていくやり方の方がうまく行くようです。
皆さんも、初めて作った人材育成のコンテンツが、やたら分厚い資料になってしまったら、ちょっと手を止めて考えてみてください。
さて、ここ何回かは人材育成のプロセスについて考えてみました。
計画から初めて、実行、評価/改善とご説明しましたが、やはり“きちんと”プロセスを実行するのは、面倒だと思われた方も多いと思います。
でも、本当にきちんと人材を育成しようとすると避けられないテーマでもあります。
どれも自分の仕事の合間に、片手間でやっつけるのは難しい内容だと思います。
それだけ人材育成の役割を担っているマネージャの責任は重いし、マネージャとしてのスキルも必要と言うことですね。
私が以前に居た外資系の会社では、マネージャが一度にマネジメントできる社員は、5・6名までと言われていましたが、これまでご説明してきた内容を考えると、それも仕方がないかなと思ってしまいます。
(ちょっと暗くなってしまったでしょうか。)
くじけずに頑張りましょう。
今回までの連載で、概ね人材育成の枠組みをご説明することができたと思います。
ここで一旦区切りを付けて、次回からは少し違った視点で人材育成のことを考えて見たいと思います。
人材育成シーズン2ですね。(ていうか、今まではシーズン1だったのか?)
それではまた。