はじめまして。アイ・ティ・イノベーションの竹内博樹です。新たに『PM+BAの実践講座 ビジネス思考がIT人財の価値を向上させます!』という連載を配信させていただくことになりました。よろしくお願いいたします。
この連載では「PM(Project Manager/Project Management)とは?」や「BA(Business Analyst/Business Analysis)とは?」といった定義や方法論を解説することに傾注するのではございません。連載の最初は「なぜPM+BAなのか?」、その理由についてお伝えいたします。その後の連載では、私が直接・間接的に経験してきたことなどを題材に、読んでいただいている方に、実践的な「PM+BA」についてお伝えいたします。そして連載を通じ、『ビジネス思考がIT人財の価値を向上させます!』のコンセプトを皆さまにお届けしたいと思っております。
どのようなミッションを行なうとしても、その仕事を行なうことに何らかの価値がなければなりません。価値がなければ個人や企業の存在意義は無くなるだけでなく、労働の対価を得ることも出来なくなるからです。
当然PMやBAのミッションを遂行する場合も同じです。
ではその『価値』とは何なのでしょうか?
民間企業であれば、その存在意義である「社会に貢献する活動を行なう。その結果の見返りとして対価である売り上げ・利益を得る。」という循環に寄与できている状態であると考えます。そしてそのような状態を永続させるためには、企業という法人、そして企業を構成する最も重要な資産である「人」が、お客さまに対し、直接・間接的に価値を提供し続けることがとても大切です。つまり「人」は、「プロフェッショナルな人材」であることが前提となります。
では「プロフェッショナルな人材」とは、どのような人を指すのでしょうか?
私が勝手に師と仰いでいる次の2氏から、参考になる解釈をご紹介します。
◇P.F.ドラッカー氏:プロフェッショナル・マネージャーの行動原理」(HBR,June 2004)より、有能な経営者に共通する行動原理は、次のとおりであると述べています。
・「何をしなければならないか」と自問自答していた。
・「この企業にとって正しいことは何か」と自問自答していた。
・アクション・プランをきちんと策定していた。
・意思決定に対して責任をまっとうしていた。
・コミュニケーションへの責任をまっとうしていた。
・問題ではなくチャンスに焦点を当てていた。
・会議を生産的に進行させていた。
・「私」ではなく「我々」として、発言したり考えたりしていた。
◇大前研一氏:ザ・プロフェッショナル(ダイアモンド社,2005)より、次のことをもれなく兼ね備えた人材をプロフェッショナルと定義しています。
・感情をコントロールし、理性で行動する人
・専門性の高い知識とスキル、高い倫理観はもとより、例外なき顧客第一主義
・あくなき好奇心と向上心
・そして厳格な規律
PMとは、プロジェクトマネジメントを行なう人のことをこの連載では指します。一方BAは、ビジネスアナリシスを行なう人(ビジネスアナリスト)のことをこの連載では指します。プロジェクトマネジメントの考え方はPMBOKの普及などもあり、実現出来ているか否かは別として、少なくともITの仕事に従事している方には広く浸透してきていると感じています。一方でビジネス分析を行なう人は、ビジネス分析を行なう際の知識体系を纏めたBABOK®が2006年に初版されるまで、少なくとも日本国内では、言葉の浸透度は低調でした。
ではBAとは、どのようなことをする人なのでしょうか?
BABOK®を参考に定義すると、『組織のゴールを達成するためにステークホルダーから要求を引き出し、解決策を考え、それが実行可能な状態になるよう定義し、解決策が実行され効果を評価する一連の活動』といえます。
例えば次のようなケースが当てはまります。
あなたは、とある企業の情報システム部門に所属しています。その企業はビジネス環境の変化に対応するべく、M&Aを行なうことになりました。M&Aの効果を得るべく、業務およびシステムも効果的かつ効率的に変更する必要性が生じました。この時の企業戦略は「M&Aによりビジネスの規模を拡大すること。またIT化を徹底的に推進し、固定費を低く抑えることで利益が出やすい企業体質にすること。」とします。
さてこの場合、システム部門のあなたは、どのような取り組みをすれば、企業戦略への実現寄与度を高めることが出来るのでしょうか?
私も20歳代の頃はそうでしたが、とかくITに携わっている方は、「どのようなシステムを作るのか?」という“どのように(How)”を真剣に検討し始め、企業戦略そっちのけでシステムを作ることにまい進しがちです。つまりITに携わっている方は、ユーザを含むステークホルダーと、“何のために(Why)”や“何を(What)”を合意せずにまい進しているのです。その結果構築されたシステムは、特定の部署にとって使いやすいだけのご都合主義的な価値しか生み出さなくなります。そのような状態になる兆候は、上流工程における「要件が決まらない」に表れます。そもそも“何のために(Why)”をステークホルダー内で共有できていないため、要件を決めようにも、その目標である御旗がありません。そのため要件が迷走しているのか否かすら、誰にも分からず判断できないのです。
システム部門のあなたが気をつけるべきことは、「M&Aだから関係企業のシステムを統合する」ことが目的と一気に考えるのではありません。企業戦略に謳われた「IT化を徹底的に推進し、固定費を低く抑えること」を実現するためには、BABOKⓇで定義された次の要求を、段階的に精緻化することが重要です。このような要求を明確にしてゆくことは、BAにとって最も重要なことの1つです。
では具体的にPM+BAで、どのような価値を創造できるのでしょうか?
次回はこのテーマについてお伝えします。