ニーチェが、その著書である「ツァラトゥストラは、かく語りき」で言わんとしたことは、神が死んだ世界では、人間一人一人が、どこにも規範が無い中で自分自身の価値を作り出し、すべての責任を負う覚悟で行動しなければならないということである。
また、生の根本原理は、「力への意志」であり、人間は、この力への意志に突き動かされて行動すると言っている。生きている限り、人間は、力への意志に従ってより強く大きくなろうとするものだ。力への意志は、時代によって現われ方が違うとも言っている。
現代社会においての力の対象は、金が代表的なものであるが、これを目標にして行動するのは、薦められない。人間には理想とする何かがある筈だ。個々の人が、それを見つける必要がある。
私の場合は、ITという道具を通して、組織のイノベーションに貢献するということだ。イノベーションを顧客と一緒に実現することこそが、私の理想だ。社名にも意志の証明として「イノベーション」を使っている。迷いや壁にぶつかったときには、社名を思い浮かべることにしている。社名に反することを、していないかどうか原点に戻って考える。会社設立(1998)の前に、様々な方法論やコンサルティングの経験を積んでいたが、組織や組織を構成する人に関する原理原則を勉強し、仕事を実践する場で明確に意識するようになったのは、ここ10年ほど前からである。
ドラッカーのマネジメントに関する本も、若い頃読んではいたが、今ひとつ理解していなかった。ある程度、ビジネスを経験した上で、あらためて読んだドラッカーは、衝撃的だった。ドラッカーが、描いたビジネスの世界には、ニーチェの力への意志が、バックグランドにあり、生身の人間が、目的を持ち理想を実現に向けた組織運営を行うための社会生態学としての人間の分析を見事に行っている。組織を無機物として扱う統計学などの数学的手法を持ち込むのではなく、動物としての人間、社会、組織の関係から成功のための法則や定理を見つけ出していることがすばらしい。
人を中心に考えていることが、他の原則本とは異なる。我社の経営指針に掲げている「人を中心に考えてこそ強いITができるのです」は、私自ら考えたものであるが、偶然、ドラッカーの言っていることと一致している。
私たちが認識している社会や組織の中で起こっている出来事の背後には、見えざる「力への意志」が、働いているのだ。個々の人の「力への意志」が、理想的に会社のビジョンと一致した時に、大きな成果となって現われるだろう。
もう一つ重要で事業成功に欠かせないものは、人を育成することである。伸びようとする人と伸ばそうとする人が居て初めて育成が成り立つ。一般の育成手段として、集合教育の方法がある。この教育法で知識の移転とある程度の経験をさせることが可能であるが、不十分である。動機付けの無いまま、どのように知識を注入しようとしても無駄なことだ。個々の人が、理想と目標を持つことが、成長の前提条件になるが、現実には、そうはなっていない。ニーチェは、理想を持つだけではなく、道筋もまた同様に大切であるといっている。人は、常に高みを目指すべきだと私は、思う。
最後は、ニーチェの言葉で締めよう。
「理想を持つだけではまったく足りない。理想への道筋というものを、何とかして自分で見つけることが肝心だ。そうしないと、自分の行動、生き方というものが、一向に定まらないままになってしまう。理想というものを遥か遠くにある星のように眺めていて、自分が歩くべき道を知らないのは、悲惨ない結果を生むことになる。悪くすれば、理想をも持たずして生きる人よりも支離滅裂になってしまうことがあるからだ。」
~ ニーチェ 善悪の彼岸より ~