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【第9回】秋の行楽マネジメント


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ひんやり心地良い風を感じながら、澄み渡った空に思いを馳せる・・・。いやー、すっかりと秋らしくなってきましたね。
前回まで8回におよびプロジェクトマネジメントの概要を説明してきましたが、ここらでちょっと休憩しませんか。
秋と言えば!そう、行楽のシーズンです。プロジェクトマネジメントなんて面倒臭い事はすっかりと忘れ、家族と一緒に旅行にでも出掛けましょう。山麓を覆い尽くす紅葉を楽しんだ後は、秋の味覚を存分に堪能。最後は温泉で日頃の疲れをゆっくり癒す。うーむ、最高です!
では、早速旅行の段取りを立てて・・・あれ・・・だ、「段取り」?
もしかして、これはプロジェクトマネジメント?
何という事でしょう。せっかくの楽しい家族旅行でも「プロジェクトマネジメント」について考えなければならないなんて。
しかし、家族旅行ほど日常生活の中でプロジェクトとしっくり呼べるイベントはないかも知れません。始まりと終わりがあり、これまでと異なる「新たなチャレンジ要素」を持った活動、そのものではないですか。せっかくですから、これを機会にプロジェクトマネジメントをもっと身近に捉えて考えて見ましょう。

あなたは「しっかり計画派」?それとも「気の向くまま派」?

旅の話題になると良く出てくるのが、「旅行前にしっかり計画を立てるべきか」、それとも「気の向くままに旅すべきか」と言う議論です。
別にどちらが正解という訳ではなく、「旅に何を求めるか」という目的に応じてどちらかスタイルを選べば良いのですが、家族旅行に限って言えば断然「事前にしっかり計画を立てておく」べきでしょう。そもそも家族それぞれの「気の向くまま」が合致する事はまれですし、限られた時間と予算の中で家族全員の満足感を得るには、効率的で無駄のない旅行を行う必要があります。十分な段取り無しに成功は考えられません。
仕事上のプロジェクトも同様に、納期や予算が決まっており、その中でステークホルダー(利害関係者)全員の満足度を確保しなければなりませんね。家族旅行と言うイベントは日常にありながら、仕事上のプロジェクトに近い条件を持っています。

9本の横糸で段取りを考えてみる

9本のPMの横糸と言うものを以前紹介しました。家族旅行でもこの視点を使って段取りを考えて見ましょう。

【スコープの視点】
旅行で「どこで何をしたいか」家族と話し合って決めましょう。「富士山を見る」、「乗馬を体験する」、「松茸を食べる」、「部屋で食事できる旅館に泊まる」など。後で時間やコスト面と比較しながらスコープを調整できるよう、優先順位が付けられていると便利です。
【タイムの視点】
ルートを決めて所要時間を見積もりながら、工程表を引きましょう。この際、ある程度の余裕時間(バッファー)を持たしておく事が重要です。
【コストの視点】
必要なコストを試算して予算内に収まるか確認します。時間と同様、ある程度の余裕を考えておきます。
【品質の視点】
旅館やレストランなどの評判も確認しておきましょう。ガイドブックだけではなく、今はインターネットのクチコミなども参考にできるので便利ですね。
【統合の視点】
上記までが、いわゆる「QCDS」の視点ですが、相当時間とお金に余裕がある人でもない限りはそれぞれの要素間のバランスをあれこれ調整しなければなりません。「時間が足らないので乗馬体験は諦めるぞ」、「いや、それは絶対譲れないわ」など、PMとしての調整能力が問われる事になります。
【人的資源・コミュニケーション】
体制や連絡手段など決めておきます。特に途中で2班に分かれるような場合重要ですが、ここでも「やだ、僕もママと一緒がいいー!」などのケースに対する調整が必要かも知れません。
【リスク】
さて、ここがいよいよPMとしての腕の見せ所です。家族旅行はどれだけ事前にリスクへの備えができているかで成否が決まると言っても過言ではありません。
・ 雨天のリスク→天気予報のチェック、雨天時の代替プランの準備
・ 渋滞のリスク→混雑予測情報入手と移動手段の変更検討、余裕時間の追加、代替ルートの準備
・ 予想以上に寒いリスク→セーターや上着の用意
・ レストランの混雑リスク→予約、混雑時間を外して入店、付近の別のレストランを探しておく
など、挙げればキリがありませんが、事前に対策を打っておく、また、いざと言う時にすぐに対応できるよう準備しておけばステークホルダー、つまり家族の満足度低下を最小限に抑える事ができます。
【調達】
旅館や施設の予約、電車や航空チケットなどの手配をしましょう。割引制度や調達先による価格の違いなど調べておくとコストを抑えられる可能性があります。

そして、確認・振り返り

十分に計画を立ててから出発しても、予定通りに旅行が進むとは限りません。所要時間やコストが見積もり以上に掛かっていないか確認しながら、ある程度はバッファーで吸収しつつ、また、状況によっては重要ではない場所の滞在時間を短縮するなどの計画調整・見直しを検討しなければなりません。家族旅行とは言えなかなか気が抜けないものです。
個人や友達同士の気ままな旅なら状況に応じて次の段取りをその場でじっくり決める事ができますが、家族旅行では明確な目的の達成(「乗馬を体験する」など)を期待されている以上、手遅れになってから「時間がなくなったから乗馬体験をやめる」とは簡単に行きません。予定と実績に差異が出る(ちょっと時間が遅れ気味だな)、またはその兆候が現れた(ここは思ったより見て回るのに時間が掛かりそうだな)段階で早めに軌道修正の対策を講じなければなりませんよね。

そしてようやく旅行も終盤、帰りの道すがら自然とプロジェクトの振り返りが行われる事になります。「今回の旅行すごく良かったね」、「少し予算オーバーしちゃったね、でも楽しかった」・・・。忙しかったものの、あなたは家族の満足した顔を見てようやくこの旅行が自分自身でも満足できる事になるでしょう。これこそPMとしての至福の時ですね。

プロジェクトマネジメントを身近な題材に置き換えると本質が掴みやすい

家族旅行というイベントで考えてみると、プロジェクトマネジメントがとても身近でシンプルに捉えられる事が分かります。
これからこの連載でも徐々に専門的な概念や用語が増えてきますが、このような身近な題材に当てはめてイメージする事で本質的な部分が掴みやすくなります。
仕事上のプロジェクトではステークホルダーが増えるケースが多く、人的資源、コミュニケーション、調達などの視点がもっと複雑になりがちですが、例えばあなたが学校の先生で修学旅行のプロジェクトマネジャーとなったなど、少し応用して考えると想像しやすくなるはずです。是非お試しを!

それでは、次回からいよいよプロジェクトマネジメントの具体的手順の説明に入ります。お楽しみに!

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Profileプロフィール

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弘中 伸典
1994年、徳山工業高等専門学校情報電子工学科を卒業。 SIベンダーに入社後、数々のシステム開発の現場で活躍。そこで得た多くの経験に感謝しつつも、IT業界における構造的問題に一石を投じるべく株式会社アイ・ティ・イノベーションに参画。問題の原因は、プロジェクトマネジメントの欠如にあると考え、日々のコンサルティング業務を通じてその必要性を訴え続ける。 専門領域は、プロジェクトマネジメントおよびシステム開発プロセスの標準化、PMOの設置と運営、IT投資マネジメントなど。 責任と誠意を持って問題解決に取り組む姿勢を大切にしている。 PMP(Project Management Professional)資格 保有

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