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【第7回】PMの行動様式


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本連載ではプロジェクトマネジメントの考え方がすぐに仕事に応用出来るよう、主にその手順やテクニックにフォーカスしていますが、今回は少し抽象的なテーマ、プロジェクトマネジメントにあたっての「行動様式」について考えて見ます。
プロジェクトは新しい価値を生み出すためのチャレンジ、ドラマチックに言えば「未知との闘い」であり、いかに注意深く進めようとも様々な問題が起こってしまうものです。困難な状況をいくつも乗り切ってプロジェクトを成功させるためにはプロジェクトマネジメントの専門知識を持っているだけでは十分ではなく、その土台となるマネジャーとしての姿勢や振る舞い方、つまり「PMとしての人間力」が問われるのです。
この人間力の部分を共通パターン化して言葉で伝えるのはなかなか難しく、また人によって様々なスタイルがあり一概に「これが定石」と言い切れないことは承知の上ですが、多くの優秀なプロジェクトマネジャー達が基本的な部分で共通した行動様式を持っていることは事実でしょう。これらは多くの経験則によって積み上げられてきたものであり、まぁ、分かりやすく言えば「諺」とか「言い習わし」のようなものです。
ここでは、特にこれからプロジェクトマネジメントに取り組む方に向け、基本的なPMの行動様式について紹介したいと思います。折角の先人達の叡知、スルメのようにじっくりと噛み締めながら一緒に味わってみましょう。

マネジメント以外の作業をやり過ぎない

パワーもスキルもある若手PMが陥りがちなのが、何でも自分でやろうとして本来PMとしてやるべき仕事がおろそかになってしまうことです。特に注意すべきは、プロジェクトの実作業に関わり過ぎてしまうこと、すでに起こった問題の対応に追われて将来のことを考える余裕がなくなってしまうことです。
プロジェクトの人手が不足している場合や、メンバーの作業がうまく進まない場合、ついついPM自身が作業を受け持ちカバーすることを考えてしまいます。ピンポイント的なフォローで済めば良いのですが、作業の中心人物として何かを受け持ってしまうと自分が最も詳しい領域が出来ることになり、後続の作業が雪ダルマ式に膨らんでしまうのです。また、PM自身がガンガン作業をこなしていると、メンバー達は「私達には任せられないと思われているんだなー」と感じ、やる気がどんどん失われてしまうものです。自らが手を動かして完璧を求めるよりも、割り切って難しいこともメンバーにどんどん任せて挑戦してもらい、PMとしては各メンバーの力を120%引き出すことを考えるべきなのです。
そして、プロジェクトマネジャーの重要な役割は、将来起こりそうな問題、つまり「リスク」を見つけ出し、事前に手を打って問題が起こらないようにすることです。すでに起こった問題に優先順位を付けて任せられるものは対応を任せ、今後のリスクへ取り組むための時間を確保しなければなりません。目の前の作業や問題対応に追われてそこがおろそかになってしまうと、いつまで経っても新たな問題がプロジェクトで発生し続けることになるのです。

曖昧さを排除する

少し前の流行語に「KY」というのがありました。いわゆる「空気が読めない(人)」を指し、確かに会話の流れやその場の雰囲気に合わせたコミュニケーションが取れないということは、洞察力や理解力が不足していると言うことであり問題でしょう。しかし、プロジェクト内のコミュニケーションであまり空気を読み過ぎて曖昧なやり取りをしていると、お互いの認識違いが起こったり、問題の芽が放置されたりすることとなり、取り返しの付かないトラブルに発展することが多々あります。
例えば、「この前起こった問題の影響でまだ資料が完成していません。今必死に頑張っておりますのでもう少しだけ待って下さい。」と言う報告がされたとしましょう。周囲のメンバー達は「あぁ、あの問題があったから仕方ないな」とか「じゃぁ、もう少し待つしかないな」と言う雰囲気になっていますが、あなたには「この前の問題」がどの件なのかはっきり分かりませんでした。しかし、後で他のメンバー達に聞いて見ると、実はだれも明確に分かっていなかった、と言うことが良くあります。メンバー達も同じことが気になりながらも、その場の空気に遠慮して発言せず、勝手に自分で推測してそれに納得していただけなのです。
PMとしては、勇気を持って「この前の問題とは、○○のことですか」、「では、具体的に何日までに完成しますか」、と素直にツッコミを入れましょう。曖昧さを排除しながら、具体的かつ正確な情報をハッキリさせて共有することがプロジェクト活動では重要になるのです。

関係者全員の満足度を考える

たまに、「取引先がプロジェクトに理不尽な要求をして来たから、私がピシャリと突っぱねてやったよ」などと自慢するPMを見かけることがあります。プロジェクトメンバーからして見れば「自分達を守ってくれるPM」としてカッコ良く映るかも知れませんが、これは大きな思い違いです。
もちろん、理不尽な要求をそのまま受け入れるべき、と言うことではありません。しかし、どうでしょうか。取引先からしてみるとこのプロジェクトに対して不満が残ることになります。それはプロジェクトに対する評価、最終的にはプロジェクトメンバー達の評価を落としてしまうことになるのです。通常、プロジェクトではPMやプロジェクトメンバーだけではなく、プロジェクトの母体となっている組織の管理者、関連する他部門の責任者、取引先の担当者といった様々な人が関係しています。これらの関係者のことを「ステークホルダー(=利害関係者)」と呼ぶのですが、PMの役割とはプロジェクトメンバーを守るという単純なものではなく、メンバーを含むステークホルダー全員の満足度を確保することにあります。
理不尽な要求がなされたときPMとして取るべき対応は、例えば「この作業を後回しにして、期間を2週間延ばしていただければ対応出来ます」などと言ったオプションを提示し、その中からお互いが納得出来る選択を見つけることなのです。

本音が出せるオープンな環境を作る

PMとして最も恐れるべきは、「正確な情報が取れなくなる」ことです。現状が正しく把握出来ず、問題やその予兆を早期に拾い上げることが出来なくなれば、現実と乖離した判断を下すことになりプロジェクトに歪みが生じます。やがてそれが積み重なり限界点を迎えたとき、一気に問題が表面化し崩壊してしまうのです。
感情的になったり、高圧的になったり、短絡的にメンバーのミスの責任を追及してばかりいるPMにはだんだんと正確な報告が上がって来なくなり、バッドニュースが隠れがちになってしまいます。「なあなあ」で緊張感ゼロと言うのも問題ですが、冷静でありながらも常に明るく振る舞い、本音でコミュニケーションが取られるオープンな環境をプロジェクトに形成することもPMにとって不可欠な仕事なのです。

責任感を持って粘り強く取り組む

PMとしてプロジェクトに真摯に取り組み、粘り強く最後まで完遂させると言う心組みは何にも増して大切なことです。プロジェクトに対して責任感を持つとは、すなわち、プロジェクトで起こっているあらゆる状況に対してそれを自分自身のこととして主体的に捉えると言うことです。これについては改めて言うまでもないかも知れませんが、しかし、「言うは易し、行うは難し」です。
プロジェクトは定常的な活動と違い、あらかじめ決められたことをこなせば目標が達成される活動ではありません。PMだけではなくすべてのメンバーが主体性を発揮し、全員でチャレンジし続けなければ未知との闘いには勝てないのです。しかし、そんな中でPMから「逃げの姿勢」が見えたとき、多くのメンバーはそれを敏感に感じ取って主体性やモチベーションが失われ、プロジェクト全体が保身に走ることになってしまいます。
プロジェクトを完遂するその日まで責任を持ち続けるには苦しいときだって必ずあるものですが、成功しているプロジェクトマネジャーの先人達はその強い意志や信念によって根気強く乗り越えてきたのです。

今回は少し長くなってしまいましたが、いかがでしたでしょうか。おそらくプロジェクトマネジャーとして経験を積まれた読者の方々は、「他にもPMとして重要な行動様式としてこんなのがあるぞ!」と言うご意見をお持ちでしょう。よろしければ是非コメント欄で付け加えていただければ幸いです。

では、また次回!

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弘中 伸典
1994年、徳山工業高等専門学校情報電子工学科を卒業。 SIベンダーに入社後、数々のシステム開発の現場で活躍。そこで得た多くの経験に感謝しつつも、IT業界における構造的問題に一石を投じるべく株式会社アイ・ティ・イノベーションに参画。問題の原因は、プロジェクトマネジメントの欠如にあると考え、日々のコンサルティング業務を通じてその必要性を訴え続ける。 専門領域は、プロジェクトマネジメントおよびシステム開発プロセスの標準化、PMOの設置と運営、IT投資マネジメントなど。 責任と誠意を持って問題解決に取り組む姿勢を大切にしている。 PMP(Project Management Professional)資格 保有

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