ITがあらゆる組織に浸透しつつある中で、様々な事業提携が業種を問わず、国を超えて実行されている。このような状況下で何が、ビジネスの価値を左右することになるのだろうか。つまり、「何が」を見極めなければならない。
組織成功のためには、戦略、方針、マネジメント、技術それぞれ重要だろう。しかし、どの企業でも事業戦略に基づき、「成果の出るビジネスの具現化」が、最大の課題ではないだろうか。これらを担う役割をBA(ビジネスアナリスト、あるいは、ビジネスアーキテクトとも言う。)と呼ぶ。
事業戦略に関係するビジネスプロセスを可視化し、戦略実現のためのプロセスの課題を定義する。戦略実現の課題もあるだろうし、現在実行しているプロセス上の現実の問題も存在する。これらは、戦略実現の効果とプロセス変革実現の難易度とのトレードオフにより、本当に変更するプロセスの範囲を、組織を構成する人と合意決定する。つまり、問題分析のテクニック、プロセスモデリングのテクニックなど、ネゴシエーションやコミュニケーション力を駆使して新しいビジネスプロセスを創造する。
実際のプロジェクト活動の中においては、問題分析やプロセス分析をきちんと段取りをつけて実施することは容易ではない。プロセスと関係する組織のステイクホルダーを明確にすることも重要だ。戦略に関係者している人と協議し分析作業を進め、問題課題を明らかにし、変革の範囲を納得させなければならない。また、多くの組織や人が関わる複雑な作業を段取りし、マネジメントする事もまた大変なことである。ある程度の規模のプロジェクトであれば、BAは、全体を取り仕切る「プロマネ」と協調してビジネス価値を生む役割にある。
BAの役割として、一般的な企業で見落としがちで重要なことは、ITシステムとしての設計仕様とビジネス定義(プロセス、データ)を確実に繋ぐことである。BAが、定義するビジネスとは、ビジネスプロセスだけではない。どの組織にもビジネスプロセスが、存在しそのプロセスが、関係しているビジネス上のデータは必ずある。戦略、問題課題、プロセス、データをすべて関連付け、明確に出来て初めてBAの役割を果たしたことになる。整合性の取れたプロセスは、システムとしての設計単位になる。詳細に定義されてビジネスプロセスと整合の取れたデータは、情報システムとしてのしっかりとしたデータベース基盤になる。
このように本格的なBAが、企業内、ベンダーの中に育てば、企業で実施されるプロジェクトで生み出される価値は、倍増するだろう。今までの企業における所謂アナリストは、役割も不鮮明で中途半端であった。分析はすれども自己流で可視化が不十分であったり、IT基盤との繋ぎや詳細度もまちまちでその効果は、優秀な経験者がいるかどうかで決まってしまう。この点に私は、20年来の問題意識を持っていたが、残念ながらBAを普及するチャンスが無かった。
ところが、今、ビジネスアナリシスに世界中の関心が高まっている。2003年にIIBA®(International Institute of Business Analysis)が、カナダ(トロント)に設立され、はじめてグローバルなビジネスアナリストの組織化が開始された。IIBA®では、Business Analysis Body of Knowledge®(BABOK®)というBAの知識体系がBAの標準として普及を開始している。設立5年目であるが、世界で6000人、100箇所以上の拠点で活動している。日本では、2008年末にIIBAの支部が、開設され活動を開始したばかりである。
私が社長を務めているアイ・ティ・イノベーションでもIIBA®に参加し、BAの普及を本気で実行する計画を立案中である。弊社が、本気で実現しようとしているのは、BABOK普及ではない。BABOKという知識体系に基づき、本当にビジネスを分析できる職業を確立することである。言い換えれば、BAという職業観、世界観を創りたいと考えている。
標準的な知識経験が裏づけにはなるが、重要なことは、実務者を養成する意識を企業に広め、実務者を多く養成することである。結果として、BAが確立された職業になり、プロジェクトの質も高まるというものだ。ひとつの職業観、世界観を生むことは、容易ではないが、多くの仲間を募り挑戦したいと考えている。