ある人の紹介で7月3日に財団法人日伊協会が主催する「イタリア式製品ブランドの育て方」というフォーラムに参加し、イタリアの製品やブランドに見識のある著名人4名の講演を聴いた。仕事柄、ITについてのセミナー、講演会には参加する機会は多いが、今回、イタリアのブランドに関するセミナーへ参加した動機は、まったく違う。
世界から何かを学びITビジネスに応用したいというものだ。講演者は、フェラーリをデザインした工業デザイナーの奥山清行(おくやま きよゆき)氏、東レの子会社のアルカンターラ社でトップを勤めイタリア一の中堅企業に育て上げた小林元(こばやし はじめ)氏、イタリアに学び日本でイビサブランドを成功させた吉田茂(よしだ しげる)氏、日本におけるブランド研究の一人者である片平秀貴(かたひら ほたか)氏ら4名の多彩な顔ぶれで、どの講演者も価値についての哲学もあり、実績のある方々であった。
一流のデザイナー、企業での成功者の話を聞き込んでいくうちに日本での製品開発や販売の考え方と、まったく異なることが、明確になってきた。同時に、イタリア式のブランド創造方法は、ソフトウェアビジネスが求めているものと類似性があると思った。
片平氏の講演の中で、次の言葉が極めて印象的であった。
品質には、「機能的品質と感情的品質」が存在する。機能的品質とは、一般的に日本の企業が目指している品質の定義である。機能的な品質を一生懸命追及し、製品を開発し、大量生産し、競争に勝つために他社よりも安く売る。マーケティングを強化してより多くの人によりたくさんの製品を供給する。2-3年もすればコモディティ化してしまうだろう。イタリア式の製品開発や販売の考え方は、機能的品質にとどまらず、感情品質まで含めて製品価値を評価する。
感情的品質とは、製品に接したときに感じる感動や驚きまで含んでいる。そこまで含めて価値を考えることだ。良い「もの」とは、単に物理的なモノだけを意味するものではない「幸せ」をお客様に届けることまで含んでいるのだ。言い換えれば「用(モノ)と美(こころ)」の二つが融合したものである。感情でよいと理解された製品は、顧客に愛されるだろうし長く使われるだろう。
このように機能的品質(モノ)と感情的品質(こころ)を備えた製品を、特定の層の顧客に、需要より少しだけ少なめに供給する。本当に製品の良さをわかってくれる顧客に需要より少なめに販売するので、確実で価格も維持し届けることができる。
日本でもシマノの企業哲学や「京のほんまもん」の考え方が近いが、多くの企業の考え方は、安くてよいものを量産する考え方である。
一流ブランドの製品を生むためには、玄人の存在が必須である。玄人の仕事は、定番の製品に驚きを与え、顧客の期待を満足させると同時に納得させ幸せ感を与えることができる。奥山氏は、フェラーリのデザインを15分で描いてスポンサーを納得させた一流のデザイナーだ。しかし、そのデザインを描く前に10,000枚のデザインを実際に描いている。血の出るような努力を実行できた人である。本当の玄人は、仕事に対する哲学を持ち、自分を磨き続ける人だと私は、思う。これがあるからこそ、ブランドを生むことができるのだ。
ITの世界で問題なのは、そもそも玄人がほとんどいないのだ。玄人を育ていくことと、製品や品質に対する考え方を学び直すことが業界に必要なことだ。感情的品質の存在を理解しなければならない。芸術、音楽を余暇に楽しみ、感性を磨くことが、特に30代40代のリーダー、マネジャークラスに必要である。ITの世界で玄人を育て上げITの世界でイタリア的なブランドを育てられるように努力してゆきたいものだ。
「用」と「美」、「驚き」と「感動」、「玄人魂」、「感情的品質」、「哲学」。やっぱりビジョン、信念、哲学いずれも足りないと私は、感じる。少しずつでもイタリアの成功ブランドに学び、日本古来のよさを復活させ仕事に融合できるよう努力して行こう。
今度は、江戸時代の勉強をしてみよう!