何年ぶりだろうか。軽井沢での講演のため、敢えて名古屋から「特急しなの」を使い長野経由で軽井沢行きを決めた。名古屋での学生時代、木曽路は、スキーやドライブで庭のような存在だった。名古屋では、桜は葉桜になりわずか三分ほどの花びらが残っていた。
名古屋駅を出発し、最初の景観は多治見に着くまでにある定光寺付近の渓谷である。
やや深めの流れが緩やかな緑色の川を囲むように、大きめの岩と少し切り立った谷があり、線路沿いの川を挟んだ対岸にうねりのある道路が見える。渓谷を過ぎれば多治見だ。
私の子どもの頃の多治見は、名古屋から近い立派な山国だったが、今では名古屋のベッドタウンになっている。50年前とは様変わりだ。
さらに木曽路を先に進むと土岐、瑞浪を通り中津川に到着する。多治見から瑞浪にかけては窯業が盛んで、いわゆる瀬戸物が名産である。
素朴な山間の町が続く。中津川を過ぎるあたりで岐阜県から長野県に入り本格的な山深い木曽路を進んでいく。
名古屋から一時間ほどで、列車は深く曲がりくねった山間に入る。名古屋では多分、中津川あたりまで桜はあっても、桜の色に葉桜、緑の葉が混ざって見えるに違いない。どこまで行けば満開になるのか、山の緑や雪はどのように見えるのか、変化が楽しみだ。
誰とも口を利かず居眠りしながらガタゴト、ガタゴト、山の景色を楽しんでいるうちに塩尻に着いた。塩尻から長野までさらに豊科をとおり線路が続く。(線路は続く~よ!どこまで~も・・・と心で歌っている)
線路際の斜面には満開の桜。遠くで列車を追ってくる日本アルプスは中腹より上に、男らしく雪を抱えている。奥に、さらに奥に、真っ白な岩山が続く。里には春が訪れ、木や草の芽が勢いよく吹き出している。風も無く暖かい。農作業も進むだろう。白い煙ものんびりと昇っている。
目を奥の山にやると里に近く低い山には、ところどころ、桜や白い花が見える。さらに奥の高い山は、冬山である。
思えば30年前は、毎週のようにスキーに出かけた。学生時代のその時期に感じる山と、今、目の前にしている山々では、感じ方が違う。自分の意志で選んだルートで、だからこそいっそう価値がある時間だ。「僕のしなの」は、今、谷間から山の峰沿いの線路に入り、高地から長野の平野を見下ろしている。谷間も味わいがあるが、峰沿いの景色も最高だ。特急しなのはアルプスの列車と似ている。のぞみと違って遅いのがいい。
もうすぐ終着駅だ。昼は、釜飯かそばにしよう。
つくづく日本の自然は美しいと思う。
ビジネスは、相変わらずごちゃごちゃしているけれど、半日でもいい。何もかも忘れて自然を楽しもう!さて、今日は、軽井沢で誰と会えるかな?楽しみだ。
2008年4月9日12:42分 しなの7号 1号車9番D席より