ITアーキテクトという言葉が、認知されつつある。
この背景には、情報システムが、多様化、複雑化し業務の専門家であるアナリスト(業務の専門家)やプロジェクトの計画と実行に責任を持つプロジェクトマネジャと開発者の役割だけでは対応できなくなってきたからである。
複雑で、難易度の高いプロジェクトの成功例を見てみると、プロジェクトマネジャが、ITアーキテクトの役割を兼ねている。現状の役割の構造では、うまくいかなくなってきている。
私は、ITアーキテクトを以下のように定義している。
「ITアーキテクトとは、複雑で、品質が高く、美しい情報システムを構築するためのITアーキテクチャ(システム設計そのもの)と、実現するための工法(システム化方法論)を設計する総責任者である。」
この役割は、システム開発の根幹であり、プロジェクトの成功に対して最も重要であると考えている。
建設の世界にあてはめると、「建物の設計と工法」が、ITアーキテクトの役割であり、「施工」の責任者が、プロジェクトマネジャである。システム開発の場合「設計」が間違っているので、多くのプロジェクトが、失敗している。そもそも、他の業界では、必然的な役割であるが、IT業界では、プロジェクトマネジャかあるいは他の役割の人が兼任していること自体不思議である。いわゆるSEは、ITアーキテクチャには、関心があるが、工法(方法論)には、興味が無い人が多い。単純なシステムであれば、経験があれば何とか成功するが、目標とする情報システムの仕様が、非常に複雑な場合には、正しい姿を描くこと自体もかなり難しい。加えて、工法(方法論)をいろいろな方法論や手法の中から選んだり、組み合わせたり、工法を一部新規設計しなければならなくなる。
筆者の経験から言えることは、多くの複雑なプロジェクトでの失敗原因は、工程の定義やタスクの編成に欠落があったり、進め方が不適切なことによる場合が多いということだ。
このような背景からIT設計の専門家(ITアーキテクト)が、注目されている。ITアーキテクトの必須能力は、システム設計のみならずそれを実現するための複数の開発の方法論を熟知し、対象の情報システムに対して最適な工法(方法論)を定義することである。建設と対比すると建設では、工法の開発には、数千年の歴史があり目で見て分かりやすい。また、一般的に信頼できる専門家が多く居る。
それに対して、ITの世界では、工法そのものが、未熟な例が多い。工法に対する認識も希薄である。
多くの人とコミュニケーションを図るITアーキテクトの人格面も重要である。
1000人月を超えるような大規模なシステム開発の場合は、チーフITアークテクトを中心とした専門チームの編成が必要になり、プロジェクトマネジャ同様にリーダーシップ力や政治力が要求される。
私は、今後のIT業界にとって、優秀なITアーキテクトの社会的な認知と育成が、重要な成功要因になると考えている。日本にとって必要なことは、グローバルに活躍できる優秀なアーキテクトを数多く育成し、オフショア開発を含めたITプロジェクトの水準を向上させることである。私は、日本から世界に認知されるような優秀なITアーキテクトを育てたいと考えている。