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平鍋 健児さん(5) 永和システムマネジメント 取締役


平鍋健児さん平鍋 健児さん
永和システムマネジメント 取締役
1989年東京大学工学部卒業後、3次元CAD、リアルタイムシステム、UMLエディタJUDE(現 astah* ) などの開発を経て、現在、株式会社永和システムマネジメントでコンサルタントとしてオブジェクト指向、アジャイル開発を研究・実践。マインドマップとUMLの融合エディタ、JUDE(ジュード 現 astah* )を開発。オブジェクト倶楽部を主宰。
XPに関するメーリングリストXP-jpを運営。酒と映画と福井を愛する。
翻訳書に「アジャイル プロジェクトマネジメント」(日経BP社)「リーンソフトウエア開発」(日経BP社)「XPエクスストリーム・プログラミング 導入編」(ピアソン・エデュケーション)、「マルチパラダイムデザイン」(ピアソン・エデュケーション)などがある。
参考URL: オブジェクト倶楽部  JUDE(現 astah* )

自分が大胆に変わることから新しい何かが生まれる

平鍋健児さん

能登原
平鍋さんのお話からは、ソフトウェアを介しての関係づくり、それにいわゆるネットコミュニティを使って、非常に上質な情報発信とコミュニティ作りができていることを感じますね。それがトヨタがやってきた伝統的な手法と呼応している部分がまた面白い。

平鍋
せっかくほめていただいたのですが、実を言いますと、僕はもともと表現がすごく苦手なんです。

能登原
それはちょっと、にわかには信じられませんが(笑)。

平鍋
僕はもともと非常に理系に偏った人間で、高校の卒業までは、数学はパーフェクトに近い成績でした。その半面、国語と社会がすごく苦手で、特に国語といいますか、言葉による表現は、実はすごく苦手なんです。

能登原
それがどうして、今の平鍋さんのように活発な情報発信と表現活動をなさるようになったのでしょうか。

平鍋
それにはやはりきっかけがあったんです。そういう成績でしたから、そのまま大学は理系に進学しました。数学もですが特に物理が大好きだったので、量子力学とか、相対性理論とかにとても魅かれていました。その頃の僕は、大学で量子力学や相対性理論さえ理解すれば世界のすべての仕組みがわかると思っていた部分があるんです。

でも、すごく簡単な話ですが、例えば数学の天才でも、あるいは量子力学を究めたとしても、今目の前にある恋愛の問題は解けませんよね。僕は大学でそういう問題にぶつかったときに「なんか違うんじゃないか」と思って、そこで方向性をバーンと変えたんです。

もう数学なんか一切止めて、映画ばかり見たんですよ。映画を見たり小説を読んだりしていました。それで表現が得意になったわけではありませんが。

能登原
なるほど、その頃から映画好きになられたわけですか。それは非常に大きな転機でしたね。
今までのお話を聞いていると、平鍋さんは何か問題があって、今までのやり方では解決できないと思った時に、まったく新しい方法論を立てるのですね。

平鍋
そうですね。確かにそのようです。

能登原
私はこの方向性の転換が、平鍋さんにとって一番大きい転機だったのかもしれないと思うんです。理系の人間にはどうしても、世界を理系の方法論で理解したい、理解できるはずだという欲求というか思い入れがあるようです。しかし、目の前に実在する大切な人の心がわからないという現実に突き当たる。それは本当に世の中が変わって見えると思います。
それは大学何年生くらいのことだったんですか?

平鍋
大学に入って最初のショックをうけてからすぐ、1年の時ですね。
僕は数学については高校まではずっと一番できた。でも大学に行ったら、僕にはわけもわからない問題を、クラスで横に座った女の子がすっと解いてしまうんです。ショックでしたね。上には絶対に上があるんで、僕はここまでだけど、この女の子のようにまだまだとんでもなくできる人たちがいるんだ、もういいや、と思ったということもあるんです。

能登原
そこで自分を大きく変えられるというのは、やはり平鍋さんの感性だと思います。最近ずっと考えていることなんですが、変化していける人とそうでない人がいる。人間が成長する上では、変化すべき時にきちんとうまく変化できるかどうかがポイントになります。このままじゃだめだ、という気づきが起こった時に、つらくても変化して、自らの求める価値に近づいていこうとする人は、やはり大きく成長します。

平鍋
僕が思うには、世界を変えるということの本質は自分が変わることなんですよ。相対論的に、あるいは、認識論的に言うと、自分にとっての世界は自分の中にしかないんです。自分が変わらなければ世界なんて絶対変わらない、世界というのは自分の中にある「世界に対する認識」のことなんだ、という単純なことに気づきました。それは、たぶん僕だけではなく多くの人が気づいていることだと思います。逆に僕は、自分が変われば外側の世界も変わるだろう、と強く信じているんです。このことは、歌手のスキャットマン・ジョン(*注1)が以前インタビューで、同じことを言っていたのを聞いてはっきりと分かりました。

(*注1)もともと「どもり」を持っていた彼は、自分の中の問題(どもり)を逆手にとってスキャットとして解決すること、そして、その活動が世界を変えられる、ということを50歳を超えた年齢で身をもってやってのけた。「スキャットマンズ・ワールド」は、95年に日本で200万枚販売。

能登原
自分が変わると周囲の人が変わりますからね。私自身も理系の人間だったので、システム開発をやっていた時に、最初は技法とか方法論がすべてだと思っていた部分があります。しかしそれでは上手くいかないということがわかったので、プロジェクトマネジメントをやっているんですよ。

平鍋
僕と一緒ですね。

能登原
最近はそれでも上手くいかない部分に気がついて、もうひとつ先の経営を見ていくとか、次のブレークスルーを考えなければいけないというところに来ています。
平鍋さんも今取締役というお立場じゃないですか。そのあたりはどうお考えですか。

平鍋
その答えになるかどうかわからないのですが、僕が今関心を持っているのは、XPやファシリテーションもそうなんですけど、価値とか原則を実践で体現化していくことです。つまり人間にとって大切な価値や原則を目に見えるかたちで実践したいんです。やはり経営とか人を動かすということを考えていくと、それは絶対必要なことだと思います。たとえば、リッツ・カールトンが「クレド」というカードでそれを実践していますよね。自社の価値、原則そして実践についてわかりやすくまとめられていて、その内容を企業内のみんなで共有している。経営ということになると、やはり皆さん同じようなことを考えるのかなと思います。

能登原
先程、トヨタの例で「やったことを定着させる」ことの大切さに触れていただきましたよね。常に改善し続け、それを定着させて、それでまた新しい価値を見いだして、それに向けてまた改善するというサイクルを回し続ける。そういう構造をつくれるのは、たぶん経営者だけだと思うんですよ。たぶん、リッツ・カールトンもそうですし、それができている企業があり、それができる経営者がいらっしゃる。どうすればそれができるのか、私は今それをつかもうとして試行錯誤している段階で、まだその秘密を解明できていないのですが。

平鍋
僕もまだつかめてはいません。

能登原
多分、ひとつひとつ具体的な例でブレークスルーしていくしかないかと思っています。いろいろなことをやるしかない。

平鍋
ええ。身体を使った具体的実践で、そのブレークスルーを出して行きたいですね。

「腑に落ちる瞬間」を大切にしたい

平鍋健児さん

能登原
今一番興味を持たれていることが「見える化」であるという話をいただいたんですけど、その先に平鍋さんが目指すものは何でしょうか。

平鍋
今それを含めて考えながら走っているところです。

能登原
平鍋さんはこの世界のカリスマのひとりでもあり、若いIT技術者のファンも多いと思います。そういった若い人たちに、どういう影響を与えていきたいですか。

それはもちろん、平鍋さんが主宰するコミュニティを介してということもあるでしょうし、今後、経営に携わる人間として人を育てるということともつながって行くと思うのですが。

平鍋
その設問は難しいですね。僕が考えるに、人を育てようとする時、まずそこに突然理論を持ってきてはダメだということは確かだと思います。これは僕の信条でもあるんですが、理論で「ここがこうだからこうなんだよ」というのは、一応の説明にはなりますが、相手の中で腑に落ちる理解にならないんです。だからとにかく一緒にやることです。そこで問題を発見して、それをみんなに見えるようにしていくのですが、一番困るのは、特に困っていない人というか問題があるのに気がつかない人、あるいは諦めている人ですね。

例えば、何も悩んでいない人にオブジェクト指向を説明してもダメなんです。僕の場合は、最初にお話したように、「何でここをさわったらこうなってしまうのか」というシステムの見えにくさ、属人性の高さに悩んでいて、オブジェクト指向に出会ったとき、「あっ、これでもしかしたら今悩んでいることを解決できるかもしれない」と思ったわけなんです。XPについてもウォーターフォール型開発がすべて上手くいっていたら何も感じないと思います。プロジェクトがうまく行かないし、プロセスにしても上手く回らない。それはなぜなんだろうということを悩んでいるから、XPに出会って「ああ、そうか!」と思うわけです。

だから人を育てることで一番大切なのは、「なるほど」と言わせることなんです。「ああ、そうか!」という瞬間を、たとえば僕がその人から取ってしまってはいけないんです。その瞬間はとても貴重なものですし、この瞬間をとらえさせることがたぶんモチベーション的にも効いてくると思うんです。そうすれば腑に落ちるし身につく。それがやはり最初にあるべきじゃないでしょうか。このことは、Seymour Papert(*注2)から学びました。

(*注2)MIT教授。人が理解する瞬間を、「The Aha moment」と呼んでいる。タートルグラフィックを使ったLOGO言語の開発者であり、Alan Keyに大きな影響を与えた。LEGO Mindstormsの開発にも参加している。

能登原
もやもやと疑問に思っていたことが、「そうか!」と腑に落ちるのは、気持ちがいいですからね。モチベーションとして大きいと思います。でもそれには、今平鍋さんがおっしゃったように、悩みというか問題意識を持っているのが前提ですね。

平鍋
問題意識を持てるかどうかは、多分、その人が理想を持っているかどうかで決まりますね。理想を持っていれば理想と現実のギャップから必ず悩んだり、問題意識を持つはずですよ。

能登原
理想を持っていること自体が、モチベーションにつながりますしね。

平鍋
ええ、いろいろな面でそういう自分をドライブする理想みたいなものが必要なんです。ずっと現状のまま満足しているのではなく、やはり理想を持ってその高みに上がって行きたい。でも、そのまま上に行きっぱなしで現実から乖離しても困りますよね。僕が目指しているエンジニアは、理想からまた現実に着地できる人です。理想の高みから何か持って帰ってきて、実施できる。それがエンジニアの着地点です。それができてはじめて本当のエンジニアと言えるのだと思います。だから僕は実施できることを価値としたい。実施できない、あるいは自分で実施しない、ことは価値と認めたくないところがあって、理論のみを語りたくないんです。僕は理想だけを語る人は嫌いですから(笑)。

能登原
なるほどね。

進捗管理よりも進行管理を

能登原
最後に、これは必ず対談相手のみなさんに聞いているんですけども、プロジェクトマネジメントという意味で、プロジェクトのリーダーになった時に何が大切だと思っていらっしゃいますか。

平鍋
僕は、トヨタ用語の1つでもある「進行管理」というのが重要だと思います。

能登原
「進捗管理」ではなく「進行管理」なのですか。

平鍋
はい、トヨタ関係の人、それから建設関係の人から聞いた言葉ですけど、重要なのは「進捗管理」ではなく、「進行管理」なんですよ。計画と実績の数値をとらえてその差分を報告する進捗管理そのものは別に悪くないんですけれど、極言すれば誰にでもできることです。ところが実際のプロジェクトでは、計画の変更を余儀なくされることは当然というか、普通に起こることですよね。そうすると改めてステークホルダー調整をしなければいけない。つまり変更が起こるということが前提です。計画が変わることが前提として、きちんと満足できるプロジェクトをしていこうじゃないか。それが進行管理なんです。

能登原
確かに、計画の変更は、最初から必ずあるものと考えていたほうがいい。

平鍋
プロジェクトが進行中に起こりうる問題をちゃんと想定して、随時計画を変更しながら、全体の進行を管理する。その進行管理人がプロジェクトマネジメントには必要で、それをやらなくてはいけないと思っています。

計画を守ることは大事だけれど、実は計画を変更することが、現状とプロジェクトの上位目的を照らし合わせた上でもっと大事な場面もある。そしてそれをよいこととするのは、どういうステークホルダー調整が可能であるかだ、ということになるのではないでしょうか。もしかしたら、プロジェクトの上位概念であるプログラム管理、そしてその上位のポートフォリオ管理ともちょっとつながるかも知れないですね。

能登原
統合マネジメントというのがあって、そこではプロジェクト計画の作成と、コントロールの中でプロジェクト計画変更をするというのが必須なんです。でも、現実にはなかなかそれができない。1回決まるとなかなか変えられないし、ステークホルダーに対する調整ができない。だから理論としてあっても、それが現実にできるマネジャかどうか、そしてやるかやらないかというのが問題でしょう。残念ながら大きなプロジェクトの中で、それをやれる人はなかなかいない。
おそらく変更を前提とした進行管理は、きちんと「見える化」をしてはじめてできるんですね。

平鍋
そうです。やはりそこでも「見える化」は前提となりますね。ただし、「見える化」は、管理のためのものではありません。むしろ、現場の人から自然と行動が出てくることを最大の目的としています。管理主義に走ってしまい、モチベーションが湧かないような見える化は悪です(笑)。

能登原
なるほど。やはりそこがひとつの要ですか。
本日は本当にありがとうございました。これからも平鍋さんの情報発信を楽しみにさせていただきます。

平鍋
あ、最後に、2つ宣伝をさせてください。つい先ごろ、某SI会社の依田さんがプロジェクト・ファシリテーションのYahoo!グループを作ってくださいました。興味のある方は、ぜひご参加ください。
「プロジェクトファシリテーションを推進する会」
http://groups.yahoo.co.jp/group/ProjectFacilitation/

もう1つは、12月16日にオブジェクト倶楽部のクリスマスイベントがあります。今回は、「プロジェクトを成功させる7つのカギ」をみんなで探し、カギ束にして持って帰ろう、という趣旨です。ぜひ、参加してください。
http://www.objectclub.jp/event/2005christmas

能登原
たしかに、ファシリテーションの能力って、いろんなところで役に立つんですよね。また、オブジェクト倶楽部については、弊社の林も講演させていただきありがとうございました。前向きな若手の方がたくさんいらして、非常に活気のあるイベントだと聞いています。今度、是非、実際の仕事でもご一緒しましょう!

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能登原 伸二
■株式会社アイ・ティ・イノベーション 取締役 兼 専務執行役員 ■株式会社ジャパンエナジーの情報システム部門において、長年、情報システムの企画、開発、運用までの幅広い業務に携わり、ITによる業務改革、収益向上を支援してきた。また、その実務を経験する中で、システム開発における開発方法面の必要性を認識し、C/S向け開発方法論の制定、導入を推進。常に顧客と共に考え、行動し、成果を上げることをモットーとしている。

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