技術やマネジメントが、複雑で難易度が上昇しているIT業界にとって、人材の育成は、組織にとって存続に関わる課題である。
多くの企業の経営者は、この事実は頭では分っているが、行動がともなわない。
なぜだろうか?
調達側、提供側の両者に問題が存在するからである。
(提供側の問題)
この問題は、大きい。長い間、質のともなわない粗悪な教育を提供してきたために調達側の信頼を失ってしまった。教養講座、知識教育、実務訓練を分離し、分りやすく提供すべきだ。
安かろう悪かろうの教育が多く存在することも事実だ。
勿論、このような環境の中で、立派な教育を提供している組織、立派な講師も少数ではあるが存在するが、絶対量不足と平均の質が低いことがIT業界の教育マーケットの特徴である。講演者やにわか講師は多くいるが、本当の意味での社会人教育のプロは、海外に比べてかなり少ないだろう。有能な実務者が講師としてのスキルを取得し、高いモチベーションで育成に魂を注げるような仕組みを新たに構築しなければならない。
今日本のIT業界にとって重要なことは、実務に即した理論、マネジメント、実践訓練を提供し、現実に到来しているグローバルなプロジェクトに対応できる人材を促成する事だ。
この課題は、日本の国力に深く関係してくる。
(調達側の問題)
一般的にIT組織では、自社の能力(戦力)を正確に把握しないまま、なんとなく育成計画を組んでいる。自社の本質的な課題がはっきりしないまま、育成プログラムを決めているので、もし内容が適切で良いプログラムだったとしても個人や部門の事情が優先されることになる。直前にキャンセルが出たり、中座する人が出現してしまう。
教育の前に整えるべきことは、動機付けである。適切な動機付けがあれば、教育は半分成功したようなものである。この点に関する認識が不足している。
1.組織の戦略目標と人事上の職務規定が定義されていて個人の年度目標に対して目標管理が明確にされていること
2.個人と組織の現状の能力と、戦略に対する強み・弱みが、測定されはっきりしていて組織で共有されていること
3.トレーニングプログラムは、年度でOJT教育、コミュニティ活動や自社の改善活動などの中で位置付けなければならない
上記の条件を満たした上で、選ばれた人に適切な教育を実施する。
もう一つ言えることは、実務優先の会社がまだまだ多く、教育の効果を信用していない。金と時間ばかりかかって効果があまり無いと経営者が考えている。確かに提供側が知識教育や効果の薄い教育を提供してきたのでこれも影響しているだろう。環境がどうであれ、時代の変革期には、教育は作ってでも社員を教育し、対応しなければならないと考えるべきである。
明治時代に欧米から取り入れた制度や教育は、国力の発展に相当な大きさで貢献した。あの時代の教育に対する意欲や方法に学ばなければならないと筆者は、考えている。
必要な教育要素を以下に述べる。
1.動機付けの教育(世の中には、こんな優秀な人がいるのだというショックを与える教育や自分を見つめて生きる目標、仕事の目標を明確にしチャレンジする心をつくる教育、目標となるようなキーマンを先ず育てることも必要だ)
2.実力を正確に測定すること
3.正当なソフトウェア開発理論の教育(開発方法論、アーキテクチャやデータベース設計などの技術)
4.実務能力を直接向上させるワークショップ教育(このプログラムを通して実務能力と動機付けを行なう)
5.国内外問わず優秀なエンジニアのコミュニティ活動(動機付けの場や専門分野の情報共有の場であり、世界水準で活動して初めて自信が付く)
IT業界に重要なことは、スポーツ界にあるような目指すべきモデル(あの人のようになりたいという人)が複数存在することと、質の高い教育システムを大学から社会人までを対象に構築することである。