コミュニティ(共同体)と言えば、元々人々が生活する場である地域コミュニティを指す社会学の概念であったが、近年経営学分野でも使われるようになってきている。
実は日本の企業組織は以前(80年代ぐらいまで)は家族的、コミュニティ的な性格を強く持っていたといえる。それは組織や階層を越えたインフォーマルコミュニケーションが組織運営において重要な役割を持っていた事、組織への所属について個人はある種全人格的な関与が求められる傾向が強かったからである。しかしながらその後この性格は急速に失われ、90年代のリストラを代表とする企業の構造変革を経て、機能的な結びつきのみを重視する傾向に変化してきた。このことは、企業活動にとって、あいまいさや不透明さを排除し、効率や合理性を高めることに大きく寄与した。しかし一方で、組織構成員の倫理観の低下や、暗黙の内に組織で伝承されるような技能や知識の喪失などの損失があったことも確かと言える。そしてこの中でも特に危惧される損失は、問題解決や新製品開発などの、企業にとってクリエイティビティを強く要求される企業活動の能力低下であると考えられる。
一方、90年代中葉から急速に普及し始めたインターネットは、組織や団体の壁を越えた不特定多数の人間のコミュニケーションが可能であるという特徴から、単なる通信手段という枠を超えてバーチャルコミュニティという新しい社会関係の形成を可能にした。そしてそれはリナックスに代表されるような経済的価値を生み出すポテンシャルも秘めていることを次々に証明してみせている。
今、コミュニティというあいまいな社会関係が再評価される背景には上記のようなことがあると考えられる。その中でCOP(Communities of Practice);実践のためのコミュニティは、ナレッジマネジメント研究の中で発見された概念であり、知識を共有・創造する場の一つと言われている。その特徴は、異質な経験や体験を持った、異なる職場の人間同士が、インターネットなどのITツールを使って、知識を共有しながら新しいアイデアなどの知識の創造や、問題解決の実践を行うところにあると言われている。ここで大切なのは、このコミュニティが単なるあいまいで閉鎖的な仲良し倶楽部的なコミュニティではなく、異質な価値観の許容と、誰からみても透明性をもった創造的な実践プロセスを内包しているという点であろう。このことによって、古いイメージとは異なる新しいコミュニティの可能性を提示していることになる。