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プロマネ・スーパーコラム 第7回 ~日本のITエンジニアのかたち その2~


今回は、第6号に引き続き、IT業界の人と組織の変革について述べることにする。前号の最終のくだりで、私は、大きな体質の変革が必要であることを強調した。

つまり、日本のIT業界には、主体性、独立性を持ってビジネスを進められるだけの戦略と能力が、求められている。

人材と組織の変革の方法

IT業界の抱えている課題解決を図るには、実務能力を中心に以下の点に纏め上げられる。

  1. コンピテンシーを鍛え上げること
  2. ビジネス能力強化(営業力、企画力、マーケティングなど)
  3. IT戦略強化(情報戦略策定、ビジネスモデリングなど)
  4. IT人材戦略強化(人材モデル、教育体系)
  5. プロジェクトマネジメント強化(計画、コントロール、評価、リスク管理、品質マネジメントなど)

コンピテンシーを鍛え上げること

今回は、戦略やプロジェクトマネジメントなどに先駆け最も重要なコンピテンシーに絞って変革への糸口を探ることにする。

コンピテンシーとは、一般的に高い成果を生み出している人の行動特性のことでありリーダーシップ、コミュニケーション、問題解決力、向上心、改革改善行動、協調行動などを示し、我が社では、14種類に分類している。情報戦略策定、プロジェクト管理、要件定義、システム設計などどのプロセスを実行するためにも共通な基本的な能力のことである。一般的に人は、これらのコンピテンシーを意識しなくても毎日の活動を通して学習している。人が成長する上で欠くことができない最も重要なコンピテンシーは、向上心である。向上心が無ければ、何をも生み出さないし、発展も無い。我が社が測定した3000人以上のデータに基づいて事実を述べると、他の業界に比べて日本のIT業界の人は、向上心が低く、改善や改革に対して消極的であることが分かってきた。

また、ITプロジェクトでの活動にとって重要なコミュニケーションやリーダーシップについても不十分であることが分かっている。それに対して責任・約束やチームワーク・協調行動、コスト意識などは、比較的高い数値を示している。どのIT組織も相似形になっている。変革に取り組む経営者やマネジャは、これらの特徴を理解しなければならない。組織を構成する人たちの特徴を理解しないまま、表面的な教育をいくら企画し実施しても砂に水を撒くようなものである。一向に効果は出ないだろう。

私は、昨年の後半4-5ヶ月を要してプロジェクトマネジャの育成支援を実施した。このプログラムは、期間的にも内容的にも大変恵まれたもので教育の成果はもとより終了後教育訓練の方法について様々な分析を行うことができた。一般論で言えば、コンピテンシーに関する項目は、個人の過去の経験、環境、意識に依存しており、単純な教育では改善することが難しいといわれている。教育でできることは主に知識の移転と何かを気付かせることであり、なかなか個人の行動が変化するところまでは到達しないものだが、このプログラムでは、コンピテンシーのほぼ全領域について向上させることができた。

どのような方法でコンピテンシーの向上を実現したか述べることにする。

自分を知る

まず、スキルの診断を実施し自分自身の能力を知るところから動機付けが始まる。通常のエンジニアは、自分の能力を正確に把握していない。診断により自己のポジショニングと強み弱みを理解する。このことは、変革・向上への一歩である。たとえば、自分が十分な能力を持っていると感じている人は、能力向上の必要性を感じていない(飽和している状態)ため向上できない。また、自信を無くしている人も同様に意識を変えない限り向上できない。動機付けは、自分を知ることから始まる。

合計20日間のワークショップとOJTを中心としたトレーニング

前半の10日間のコースは、午前中の座学と午後の数人でのワークショップで構成されている。毎回、受講者は、あるテーマについてチームで課題に取り組み発表しなければならない、発表後即座に内容の他チームへの質疑と講師による評価が行われる。合計で10種類の課題をコースの期間中毎日こなさなければならない。
最初は、いろいろ考えたり、躊躇したりするが、だんだん質問したり、メンバーとのコミュニケーションの方法が円滑になってくる。テーマは違うが、何度何度も強制的に一定時間内にチームでの意志統一を図り成果物を仕上げることになる。

3-4日目までは、ぎこちなさが目立ちチームでの成果も十分ではないが、繰り返していくうちにチームの能力が向上してくる。また、個人のリーダーシップ力も強化されてくる。6-7日目くらいからチーム力向上が、顕著になってくる。

最初は、恥をかきたくないとか、チームメンバーの相手のことがよく分からないので様子を見ながらテーマに取り組んでいるが、時間も十分ではないし成果物達成目標が高いのでだんだん目標に集中しなければやっていられなくなってくる。気が付くとチームで最大の能力を発揮するように動けるようになっている。
後半になると知識が徐々に実行能力に変ってくるだけではなく、構成メンバーの特徴を生かしたメンバー同士が、長所短所を埋めあうようになる。10日間のテーマ別のワークショップが終了すると、次に待っているのは、10日間連続の実際のITプロジェクトに対するOJTである。このOJTでは、最初の10日間のワークショップで学んだ個別要素を活用・応用してまとまりのある計画をチームで作り上げることになる。さらに困難な課題に自分達で10日間の計画して取り組まなければならない。自分達で問題点や課題を創出し役割分担を行い短期間に仕上げなければならない。

10日後に待っているのは、エンドユーザーと受講者の上司、講師へのプレゼンテーションである。各チームの計画の良し悪しを多面的に評価を行う。優勝チームと個人表彰(MVP)を決定する。10日間のOJTでの成果の質と量は、通常の会社の中では、達成できないほどの内容である。講師や上司が感じるだけではなく、受講者自身が、今まで短期間にこのような成果を出していなかったため普段の業務のやり方が間違っていたことにも気付くことになる。良い意味で強い刺激、動機付け、プレッシャを与えた上で適切な訓練を行えばコンピテンシーは、改善することが証明された。

コンピテンシー向上は、何で判断できるか

一連のプログラムを実施し、最後に再度の測定とアンケートを実施した。受講者は、知識でえられたものをワークショップやOJTを通して実行できるようになったと実感している。受講者は、頭でではなく身体で経験して何が間違っていたか、これからどのようにしなければならないかを分かったのである。やり方が、分かったため自信が生まれる。経験するだけではなく自信が生まれたときに初めてコンピテンシーは、変化するのである。このことは、受講者自身でなく上司や講師が外から見て明らかに変化したと感じたため終了後の測定では、本人評価よりも他者の評価が大きく向上している。

我々は、少ない時間の中でどのように訓練を行えばよいか

通常のIT組織では、20日間もの教育の時間を確保することは難しい。個人とチームの自信に繋がる訓練は、適切なプレッシャと動機付けの元に、実行する業務の中で磨くしかない。

能力を向上させたいと思う人は、以下のように考えると良い。

  • 適切なプレッシャは、前向きに捉えれば能力向上の条件である
  • 現状の自分の能力を正確に知り、目標を立てること
  • 獲得したい能力目標を掲げて自信を持てるまで繰り返し訓練すること
  • 成果をジャストイン・タイムで評価・指導する環境を用意すること
  • 仕事についても自分で納得できる高い目標を立てチャレンジすること

事業を実施する中で経営者の方に考慮していただきたい具体的な教育のポイントを纏めてみよう。

  • チャレンジする人を評価すること
  • プロジェクトの計画など重要な局面をワークショップ方式で検討すること
  • プロジェクト実施の際にプロジェクト目標、チーム目標、個人目標を計画し宣言させること
  • キックオフ、プロジェクト評価・報告会を実施メンバーにより実施すること
  • 知識の獲得と同時に2-3日程度のワークショップ教育を実施すること
  • 実務を支援する標準プロセスの準備
  • IT組織の改革・改善の考えを纏め上げ発表し評価する場を意識的に作ること
  • 目標管理の運用方法を工夫すること

逆に伸びない組織の犯しやすい誤りも纏めておくことにする。

  • 十分な準備をしてから取り組もうと考えること
  • 教育でプロジェクトや改革が、成功するようになると考えること
  • 経験者や社外の専門家に過剰な期待をすること

これらは、期待できそうで期待はずれになる。自分自身で成功を確信しチャレンジすることを思い出してほしい。実現しようとしている目標は、過去に誰かが実現したものより高いものを求めていることを忘れたのか。

IT活動は、発明や発見の世界ではなく、社会科学的な経験的な活動であることを忘れてはならない。80%までの能力は実務の中でしか獲得できない。

次号では、コンピテンシーの向上は、前提として次に何をすべきかを考えることにする。

第8回につづく

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林衛
IT戦略とプロジェクトマネジメントを中核にITビジネスのコンサルティングを行うアイ・ティ・イノベーションのファウンダーであり社長を務める。◆コンサルの実践を積みながら英米のIT企業とかかわる中で先端的な方法論と技術を学び、コンサルティング力に磨きをかけてきた。技術にも人間にも精通するPM界のグランドマスター的存在。◆Modusアカデミー講師。ドラッカー学会会員、名古屋工業大学・東京工業大学などの大学の講師を勤める。

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