読者の皆様、新年明けましておめでとうございます。2004年最初の話題は、IT業界の人とスキルに関して述べることにする。
私の会社では、3年前からITエンジニアとIT組織に関するスキル診断を可能にする仕組みの開発・実用化に取り組み、これまでに約30社のIT組織に対する診断を実施した。
対象とする企業は、ユーザー系企業の情報システム部門、独立系SI事業者、ユーザー系企業を親会社に持つSI事業者を中心に組織診断、個人の診断を行っている。様々なタイプのIT組織の能力と強み弱みを定量的に測定し有効な改革案、改善案を診断後に提案している。
これまでに30社、3000人以上のIT実務に従事するマネジャ、エンジニアに関する正確な状況が分析・蓄積している。やればやるほどいろいろなことが発見できる。楽しくもあり、しばしば、結果に落胆することもある。結果を知れば知るほど「何とかしなければ」とIT業界変革への熱意が沸いてくる。
今回のスーパーコラムでは、私が、今の時点で理解している日本のIT人材の実態をお伝えしたい。
IT組織の経営は、どのようになっているか
IT組織が、一般的に抱える人材の問題は、以下のようなものである。
これらの状況下で、経営者は、本当の会社の実力、社員の実力を把握していないまま事業を行っているのが現状である。各個人も自分の能力について正確に理解していない。IT組織の成功とITプロジェクトの成功は、人材で決まるとは言いながら人材の問題は、いつも先送りされている。しかし、一方で経営者は、人材が重要であると分かっていてもなかなか自信が持てないでいる。これこそが、我が社の課題であると確信し有効な手立てを打つ勇気も無い。このことは、個人に関しても同様である。画一的な仕事をエンドレスで与えられ消化することが、ITエンジニアの仕事のように映る。元来、エンジニアの仕事は、創造的で夢に向かって行くような仕事であるべきだ。現実は、目指すものも目標もはっきりとしない。この事態を打破しなければ、IT組織の将来は無いだろう。
人材戦略に対して何が足らなかったのだろう。
それでは、何が、欠落していたのであろうか?企業活動で重要なのは、人、物、金の管理であることは、言うまでも無い。物と金の管理についてIT組織は、定量的に確信をもって実践してきたが、人については、KKDであった。人に関する定量的な評価の方法が見つかれば、経営者は、自信を持って戦略に取り組めるだろう。また、社員一人一人にとっても自分の将来を見定めるために重要な役割を果たすだろう。
人材戦略に欠けていたものは、次の点ではないだろうか?
どうやって組織、個人のスキルを測定したか
スキル診断は、インターネットを利用して基本的に個人の自己申告と3名から5名の第三者の360%評価を元に実施する。一度に何百人でも実施可能である。診断の内容は、IT組織で必要とされる情報戦略策定、ビジネスモデル定義、情報システム計画などのIT組織の上流のプロセスからシステム設計テスト計画、システム運用といった開発プロセス、営業系のビジネス戦略策定などIT組織を維持運営するための29のプロセスに関するスキルを知識と経験の側面で測定する。ITのプロセスとは、別にコミュニケーション、分析力、リーダシップなどのコンピテンシーについても14の項目を測定する。これらの項目は、2百数十もの的確な質問に回答することで測定の基礎情報とする。基礎情報とプロマネ、アナリストなどのIT組織での役割に応じたベンチマーク情報、30社のベンチマーク情報などを組み合わせて組織と個人の様々な分析を可能にしている。また、ITSSの基準で測定結果を示すこともできる。
この国のITエンジニアのかたち
これまでのスキル診断により得られた事実を述べる。
(1)IT組織のスキル習熟について
一般的なIT組織のスキル獲得スピードは、35歳くらいまで着実に成長する。成長するスキルは、システム設計、構築など開発プロセスに関するものが中心である。35歳から40歳にかけてスキルの成長は鈍り始め定年までほぼ横ばいになる。原因は、マネジメントスキルや戦略的なスキル養成をほとんど実施していないか獲得する機会が無いかどちらかである。多くのIT組織の付加価値は、戦略性やマネジメント能力によるものであるが、この領域は、基礎ができていない。
(2)IT組織のスキル傾向
一般的なIT組織は、今まで黙っていても仕事があったので営業系のスキルは、非常に弱い。また、営業や提案に関る人は限られた人であるので、営業がビジネスの源泉であることを理解していない人が多い。また、最近プロマネが注目されているが、戦略、計画、評価といったマネジメントの基礎スキルを持っている人は、非常に少ない。かろうじてKKDに頼った進捗管理だけは、自信を持っている。これらの人に本格的なプロマネのトレーニングを実施すると、できると思っていたことができていないことに気づき、ショックを受ける人が多い。こうしたショック療法は、スキル獲得の上で効果的である。ほとんどの企業で金太郎飴に近い似通ったスキル傾向を示す。設計と構築にスキルを保有している企業が多いが、中国、インドなどの新興で、高スキル、低コストの勢力に対抗できるだけの競争力は無いと思われる。日本のIT企業は、システム構築などの量産する仕事は、低コストな企業に任せ、企画やマネージメントへ何割かの人材をシフトさせる必要がある。
(3)IT組織を構成する人のコンピテンシー(行動特性)
長年、同様の変化の無い仕事に従事すると人は一定の行動特性を取るようになると思われる。IT組織に従事する3000人に見られる傾向で特徴的なのは、どの組織も向上心が低いと言う点である。向上心こそが、他のコンピテンシーやスキルを伸ばす原点となる項目である。向上心は、入社当初は、一定の値を示すが、画一的な仕事に慣れる5-6年目で低下し始め4,50代まで低いままである。向上心が低いと個人の変革は困難である。したがって組織の変革を実現できないことになる。タイムチャージ/コスト意識、チームワーク/協調行動、責任/約束は、比較的高く日本的な企業特性を現している。それに反してコミュニケーション、企画力、リーダーシップなど外に対しての影響行動と関連する項目が、弱い。
日本のIT業界には、今後、主体性、独立性が求められている。自立した業界として成立するためには、体質の変革が必要であり、体質の変革とは、人の変革に他ならない。
組織の変革の方法
これらの業界の抱えている課題解決は、実務能力を中心に以下の点に纏め上げられる。
次号では、「日本のITエンジニアのかたち その2」として、具体的な変革の方法について考えたい。
<第7回につづく>