私は、今年経済産業省の進める高度人材育成事業の一環に参加し、岐阜県下のSI事業を営む企業のプロマネ育成を約4ヶ月間に渡って実施した。経済産業省が定めるITSS(ITスキル標準)の枠組みに従いPMのレベル5,6を目標とする育成プログラムである。
この事業のプログラムの設計者として、講師として参加した結果PM育成に関する有効な方法が分かってきたので読者の皆さんにはいち早く伝えしたいと思う。
今回設計した育成プログラムは、多くのワークショップとOJTを中心に構成され、知識の獲得よりも実践力・実務能力を強化することを主眼に置いた。
PM人材育成プログラムの概要は、以下のようなものである。
これらの一連のプログラムは、4ヶ月間で2日講座を5回で10日間10回のワークショップ、OJT10日間、診断や成果発表会などで2日間の合計22日間の訓練であったが、4ヶ月間という短期間で相当なスキル向上を実現することができた。講師チーム3名、スタッフ2名が、一貫したチームと一貫した教材により支援を行った。今回のテーマであるPMという業務は、知識だけでは無く実践力を付けなければ意味が無い。日本で多く実施されている教育は、知識の移転であり、これ自身が、意味が無いわけではないが、実際に受講者が手が動くレベルの実践力を得られない限り、仕事の中での成果として現れないことが分かっているからである。つまり、知識だけが向上した場合と知識が無い場合とは、何らプロジェクト現場での行動は、変化が無いということである。
スキー、ゴルフなどは、理論も確かに大切であるが、ラウンドレッスンがなければ向上はおぼつかないだろう。人は、聞いたり見たりしたことを、実際にやってみるとなかなかうまくいかないものだ。2-3日の座学で行動が変えられるのならどんどんPMが、育成されてよいし、そんなことで育てられると考えること自体がおかしい。PMになることはそんなに甘いもんじゃない。
最初のスキル診断は受講者に良い動機付けとなる。受講者は、事前に自分の分かっていることと分からないことの分類ができるからである。次の10日間・5講座である(2)と(3)は、毎日座学を3.5時間、ワークショップを、3.5時間の構成で実施した。最初の4日間までは、受講者があまりにもプロジェクトマネジメントに関する知識が不足しているために、PMBOK,CMMIなどの基礎知識の移転とワークショップに慣れるための段階であったために、とにかく体と頭で学ぶという段階であった。最初の4日間は、今までのPM活動が、いかにKKDに頼っていたかを思い知る段階である。今までできているつもりのところが、知識を得ることによってちゃんとできていなかったことがだんだん分かってくる。一旦は、自信を失いかけるような場面もあったが、ワークショップによる訓練を4-5回繰り返していく過程で5日目以降に実践能力が、明らかに変化して、各ワークショップチームが、活性化し、成果物の質的な向上と質問の内容が高度化してきた。学んだ知識を行動に生かすことができ、チームでの訓練に慣れ、お互いのコミュニケーションの方法やリーダーシップなどがチームでの環境により醸成されたことで、チームでの成果に変化が現れたためである。チームでの訓練を4-5回に渡って実施して初めてチームの行動に変化が見られる。ここでの方法は、サッカーやラグビーなどでのセットプレーの練習や想定したケースに対する繰り返し訓練に相当する。
本当のPM訓練は、スケジュール作成、組織化、重要成功分析、品質目標、リスク評価などPM実務として無くてはならない基本要素を一貫したケーススタディに基づいてチームで毎回、納期と成果物に関する課題が与えられ坐学、チームでのワークショップ、発表と講師評価を繰り返し、繰り返し実施するものである。
この環境は、実際のプロジェクトの状況に近く、常に納期、品質に関してプレッシャーがかかるものであるが、講師が正しく導けば楽しくワークショップは進行する。
この後に10日間の期限でより実際のプロジェクトを題材とした複雑で難しい(ITSSレベル5,6を想定)環境で総合的な計画とチーム毎に与えた創意工夫に関する課題を中心としたOJTを実施する。OJTは、前段階でのワークショップに比べて、期間も長く自由に活動できる。しかし、OJT期間中のチーム力や各メンバーの意識が噛み合わないと、期待する成果は得られない。OJTの成果は、各チーム1-2センチほどの計画書に纏め上げなければならない。そして、実際にOJTの題材を実施しているプロジェクト責任者、県の発注者、受講者の参加した企業の上司の前でプレゼンテーションを行い、総合評価されることになる。
受講後のスキル評価やインタビューなどによれば、長期の訓練をやり遂げたことで、PMとしての実務能力が増したばかりかコミュニケーション力やリーダーシップ力などの向上が、自己評価として伸びただけでなく、上司や講師などから見た他者評価の評点が大きく伸びたことを嬉しく思っている。
有能なPMは、見るからに自信があり頼りにできる人格が必要条件となる。これらの訓練を通して日本のPM改革の一端を担えた事を実感している。今後は、この訓練システムを改良して提供してゆきたいと考えている。
<第6回につづく>