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サイバーエッセイ 第9回


最終回のテーマは、プロセスの改善とプロジェクト管理の話題です。

1.イントロダクション

21世紀に、求められるITプロジェクト管理とは、どういうものか考えてみよう。

CBOPで、推進しているオブジェクト技術を生かすも、殺すも常にマネジメントの良し悪しに関わっているという事実である。筆者は、常に、技術とマネジメントを良い結果を生み出すための両輪と考えている。今回は、この技術とは、別の重要な要素であるプロジェクトマネジメントについて、述べることにする。

筆者は、2000年6月の「特集 システム構築力ベンチマーク(日経コンピュータ)」で、発表されたプロジェクト管理に関するベンチマークの設問作りとベンチマーク評価で、調査に協力した。この調査の参加企業は、日本を代表する業種の35社である。その結果、以下のような事実が、明らかになってきた。

ベンチマーク調査は、つぎの観点で、実施した。「企画力」「プロジェクト管理能力」「開発生産性」の3つである。

企業の戦略性や創造力に関係する「企画能力」とこの企画に基づいた「プロジェクトの実行能力」さらには、スピードとコストに関係した「生産性」の要素を企業自身に採点してもらい、結果を、公表し「強み・弱み」「競争優位性」などの比較を可能にした。

調査結果を簡単に、纏めると以下の事実が、浮かび上がってくる。

  • 現在、情報技術(IT)の変革期であるので、企画力やプロジェクト管理力の評価尺度そのものが、変化している。10年前だったら高い評価を得られたとしても、変化に追従できない企業は、負け組みとなっている。つまり、昔のノウハウは、通用しないという事だ。
  • 情報技術(IT)活用を本当に意識し継続的な努力をしている企業と、そうでない企業の差は2-3年で明確に分かれる。同業種の中で、現在、良いポジションにいる企業でも、他社の方が、IT能力が高い場合には、非常に短い期間の間に逆転されかねないという事だ。
  • 調査結果から、「勝ち組み」と「負け組み」の差はますます広がっていると思われる。

真の実力のある企業とは、「変化」に追従できる事、企画や戦略だけではなく、プロジェクトの「実行能力」「具現化能力」のある企業である。

さて、カーネギメロン大学のWatts S.Humphrey教授が、提唱している企業のIT成熟度モデルでは、プロジェクト管理は、IT組織の成熟度とどのように関係しているのであろうか。 CMM(Capability Maturity Model)では、レベル2から3を目指すとすれば、課題は、プロジェクト管理の標準化や可視化であると定義している。つまり、組織の成熟度を高める観点でもプロジェクト管理は、極めて重要である。

新しい時代が求めるプロジェクト管理とは、激しく変化する環境変化の中でニーズをタイムリーに捉え、短期、高品質、低コストを実現できるマネジメント手法である。これは、別の呼び方をすれば、創造的プロジェクト管理、動的プロジェクト管理であり、 組織のコア・コンピタンス(組織に競争優位性を与える集合的ノウハウ:真の実力)である。

2.なぜ今、プロジェクトが、必要か

従来の階層的・静的組織よりも、現在、プロジェクト組織が、なぜ期待されているかについて述べてみよう。変化が激しく、創造性を要求される課題についてプロジェクトチーム化を行う事により、短期に、明確な目標に取り組む必要性が有るからである。

– プロジェクト組織の効用 –

多くの専門家のノウハウと実行力を動員して、構想を纏める事ができる。

  • プロジェクトチームは、過去や現状の組織にこだわる事無く、新しい価値観で、マネジメントする事が可能となる。
  • 必要な時期に、必要な立場で、人材を投入する事が可能となるため人材の効率的な利用ができる。
  • 世界的に共通のプロジェクト管理手法を採用する事で、標準化の推進やグローバルな活動が可能となる。
  • – プロジェクト管理手法の標準化に貢献したPMI(Project Management Institute) –
    プロジェクト管理手法は、歴史的に土木・建築、プラントエンジニアリング、巨大研究開発などの分野で、活用され整備・改良をされてきた。近年では、この分野にIT系の組織も加わり、近代的なプロジェクト管理手法として体系化が進んでいる。米国のPMIは、ペンシルバニア州に、本拠を置き、会員数が、4万4千人を超えるプロジェクトマネジメント協会であり、「プロジェクト・マネジメントの基礎知識体系(Project Management Body Of Knowledge)」を、纏め上げ、普及を行なっている。このPMBOKは、デファクトスタンダードとなっている。

    弊社でも、このPMBOKや現在まで培ってきたノウハウ、知識をITプロジェクト向けに体系化し、弊社の顧客や顧客が実施するプロジェクトで、採用され数多くの導入とカスタマイズとプロジェクトへの適用を行っている。(プロジェクト管理の作業タスク・役割、成果物、テクニックなどを詳しく定義し、ネット上で参照可能にしている。)

    3.プロジェクト管理のコンピタンシー

    プロジェクト管理のコンピタンシーとは、プロジェクトを実施する上で、企業が持ち合わせなければならない実行能力である。その詳細を、以下に示す。

    – プロジェクト実行計画の立案力 –
    プロジェクトの目的や範囲を定義し、プロジェクト推進のための、シナリオ、手法を検討し、スケジューリング、予算、体制を計画書として完成し、正式にプロジェクト実行の承認を獲得する。計画書には、ある種の不確実性が含まれている。プロジェクト計画の前提条件、制約事項を明らかにした上で、様々な代替案を検討する事がこの段階で必要である。計画段階で、プロジェクトに潜在するリスク要素の明確化と予防策・発生時対策を明らかにする。プロジェクトの開始日までの準備についても計画されなければならない。準備の対象は、要員、スキル(トレーニング計画と専門家の採用)、必要なソフトウェア、ハードウェア、プロジェクトルームなどのプロジェクト実行環境の準備も含まれる。

    – コミュニケーション能力とモチベーションの維持 –
    プロジェクトメンバー全員の意志疎通やモラールを向上させること。コンセンサスとメンタルモデルを確立する事。プロジェクトは、多くの利害関係者、組織が関わって実行する社会的、人間的な側面を持っている強力なプロジェクト推進体制を確立する事は、プロジェクトを成功させるために極めて重要である。

    – プロジェクトの遂行・運営能力 –
    計画した通りにプロジェクトを進める事。プロジェクトのファシリテーション能力やプロジェクトの進捗管理力が、重要である。プロジェクトの進行状況を、スケジュール、コスト、品質の側面で、定量的に予測し、予防的な措置を講ずる事が必要である。また、プロジェクトの進行中発生する様々な問題課題を管理したり、変更を管理したりしなければならない。

    – プロジェクト管理の情報化と効率的なプロジェクト組織の運営 –
    プロジェクト管理の情報化とは、一言で言えば、ITを利用してプロジェクト管理を効率化する事である。プロジェクト管理の情報化の意義には、2つの重要な側面が有る。

    1つは、プロジェクト情報の共有化を図る事で、情報の透明性、可視性を高めコミュニケーション力と隠し事無しの公正なプロジェクト運営を図る事を目的とする。2つ目は、IT活用のプロジェクト効率の直接的推進力向上を図る事である。情報共有サーバーやMicrosoft Project 2000などの利用により、プロジェクト情報の、正確性、一元管理が、実現でき、スピードアップとコスト削減を実現する。

    また、様々な、開発ツールや情報共有システムを利用する事で、計画、分析、設計、構築、プロジェクト管理、に関する実行プロセスと成果物などの情報が再利用可能になり、一層の効率化が実現する。(プロジェクト情報共有化の製品として弊社は、promane.comを提供している。)

    4.ITプロジェクト管理で成功している企業はどのような行動をとっているか?

    ITプロジェクト管理で成功している企業は、次のことを、意識的に実施している。全社的なプロセス定義とプロセス改善運動を実施し、自社のプロセスの強みと弱みを評価している。また、これらの実行プロセスや情報をガラス張りにしている。組織的には、戦略グループやPMO(Project Mangement Office)などの名称でコア・コンピタンスチームを編成し、企業の戦略・施策の創造、判断、具現化のスピードアップを図っている。

    5.IT活用で、成功している企業は、どのような特徴を備えているか?

    ちなみに、ITに関する種々の統計調査で信頼されているSPR(Software Productivity Reseach)のCapers Jonesの調査によると、IT活用で成功している企業は、以下の事を実現していることが分かっている。

    • ソフトウェアの品質と生産性を正確に測定できる(*)
    • プロジェクトに関する諸量、諸特性を予測できる(*)
    • 有能な管理者、技術者を抱えている
    • IT組織構造が、優れている
    • 有効なソフトウェア方法論とツールを備えている(*)
    • 多くの成果物を再利用をしている(*)
    • 技術者は、オフィス環境で仕事をしている

    *印は、ツールや情報共有の仕組み・環境と関連している。

    6.プロジェクト管理の情報共有とツールの利用で、効率化と再利用化を推進

    プロジェクト管理を実践している企業では、当然のことながらITツールを有効活用したいという要望の元、プロジェクト管理ツールはもとより、以下のようなツールの活用が進んでいる。

    • プロジェクトを実施するための方法論・手順などのナレッジの共有
    • コミュニケーション : 電子メール、掲示板
    • 進行中のプロジェクトの管理
    • ドキュメント : ドキュメント管理ツール
    • プロジェクトで、共有している情報の検索や分析を支援する機能

    このようなツールを活用しながら、プロジェクトで利用する資産を定義し、共有し、管理(マネージ)、保護することで、CMMのレベルアップを図ろうとする試みにも注目が集まっている。

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    林衛
    IT戦略とプロジェクトマネジメントを中核にITビジネスのコンサルティングを行うアイ・ティ・イノベーションのファウンダーであり社長を務める。◆コンサルの実践を積みながら英米のIT企業とかかわる中で先端的な方法論と技術を学び、コンサルティング力に磨きをかけてきた。技術にも人間にも精通するPM界のグランドマスター的存在。◆Modusアカデミー講師。ドラッカー学会会員、名古屋工業大学・東京工業大学などの大学の講師を勤める。

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