今回は前回に引き続き、90年代の海外ベンダーのお話をする事にします。
私の方法論履歴書 その2
さて、90年代に入ってから私の関わる会社は益々多様になってきました。情報システムの経営に与えるインパクトは、加速度的に大きくなり情報システムのソリューションは、「いかにソフトウェアを作るか」ではなく「いかにソフトウェアを作らないか、数あるソリューションの中から選択をして経営を満足させるか」が、テーマとなる時代になってきました。
また、経営に求められるのは、スピードであり、情報システムがこのスピードについていけなければ生き残れない時代になりました。
90年代前半のキーワードは、ERP、テンプレートなどの再利用技術とRADであると言えます。90年代後半からERP、RAD的なアプローチで導入したC/Sシステムと、以前から持っているレガシーシステムを統合管理しなければ経営の変化に耐え切れない事が顕著になりました。つまり、IT部門の成熟度が、企業の基本的競争力と関係していることに多くの企業が気づき始めました。
その結果、再びモデルベース開発のための方法論が着目され、プロセス管理という形で問題意識を持つ企業に導入されてきました。特に大企業では、90年代後半のIT戦略として、管理水準向上に努力した企業とそうでない企業では、はっきりとその差が競争力の差として表れています。また、この時代には2000年代を創造するインターネット技術が、出現し想像を絶する影響を与えています。
現在、多くの企業が、様々な形で、WEBをベースとしたシステム構築を試みています。データウェアハウスとイントラネットの連携、E-Commerceの構築、ネットワークとインターネット技術を駆使したSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)、CRM(カストマー・リレーションシップ・マネジメント)やOne to Oneマーケティングなどの実践、など。
これらのシステム構築には、新システムと既存のアプリケーションのアプリケーション・インテグレーションが、必要不可欠であり、ビジネスモデルの再構築とシステムの管理水準の向上が、重要成功要因であるといえます。ある調査によれば、現在構築中のECやSCMプロジェクトの70-80%までが、アプリケーション・インテグレーションの不具合により失敗に終わるといわれております。
私の関係した会社をITのソリューション別に分類すると以下のようになります。
それでは私が90年代に接触した代表的な会社と製品を紹介していきます。
1991年 JDEdwads社
ERPパッケージ・ベンダーであり、世界第3位の実力があります。公認会計士が開発した会計パッケージを中心に、総合ERPパッケージベンダーに成長しました。米国・デンバーに本社がある国際的な企業です。
1992~1994年 インテリコープ社(米国)
Pro―Kappa、OMW/Kappa
最初の本格的な統合OO/CASEツール・ベンダーです。当初は、ジェームス・マーチン氏が、個人的に出資していました。カリフォルニア州のシリコンバレーにあり、OOIE(オブジェクト指向インフォメーション・エンジニアリング)実現のための開発ツール(OMW/Kappa)は有名です。
1992年~ ソフツール社(米国)
CCC(構成管理ソフトウェア)
アメリカ軍関連のソフトウェアの管理技術から一般産業用へ、構成管理ソフトウェアを開発したベンチャー企業。これから注目される技術です。
1992年~ サイノン社(米国)
RPM(ラピッド・プロトタイピング・メソドロジー)
92年にサイノン社(現スターリング・ソフトウェア社)は、モデルベースのCASEツールを活用するためのRPMというRAD手法を発表しました。
1993年~ サイノン社(米国)
クライアント・サーバー・テクノロジー/ Obsydian
93年にサイノン社は、オブジェクト指向のコンポーネント開発ツールであるObsydianを発表しました。当時、このツールは、発想のユニークさと開発技術力の高さで、世界的な話題となりました。現在このツールは、Cool:plexの名で、スターリング社から販売されています。次世代のアプリケーションの開発モデルとなり得る製品であり、ソフトウェア開発に、パターン化と再利用を理論的に取り入れた最初の製品であるといえます。
1994年~ JM&Co.(米国)
私は、94年から98年まで、ジェームスマーチン社に在籍し、様々な開発方法論を学び、実際のプロジェクトに適用してきました。ここにその方法論の一部を紹介します。
1994~1997年 LBMS社(米国)
LBMS社は、80年代にSSADM(Structured Systems Analysis and Design Methods)英国政府標準方法論の開発会社としてスタートし、方法論のバックグラウンドを基礎として、SEやPEなど優秀な製品を開発してきました。98年に、プラチナムテクノロジー社に買収されています。さらに、99年には、そのプラチナム社が、コンピュータ・アソシエイツ社に、買収されてしまいました。この買収劇には、私も驚きました。
欧米では、当たり前のように企業の統廃合が起こりますが、大切なのは、これら企業が持っている技術力と企業カルチャーです。よい技術は、買収にあってもかなりの確率で生き残っていきます。
1994年~ テキサス・インスツルメンツ社(米国)
IEF(インフォメーション・エンジニアリング・ファシリティ/Composer) ホスト系統合CASEツールとして最も成功したツール。C/S環境も支援しています。IEFは、ジェームスマーチンのインフォメーション・エンジニアリングを実現した最初のCASEツールであり、80年代後半、ロンドンでJMA(ジェームス・マーチン・アソシエイツ:JM&Coの前身)が、支援してテキサス・インスツルメンツ社内のツール/開発環境として大きな投資を行って開発しました。その後、TI(テキサスインスツルメンツの略)は、JMAを買収し、CASE関連事業を立ち上げました。現在その部門は、スターリングソフトウェア社が買収し、COOL:Genの名で販売しています。
1995年~ JM&Co.(米国)
プロセスマネジメント(Architect)
JM&Coは、当初プロセス管理ツールを自社開発していました。95年からは、LBMS社からPEのOEM提供を受けArichitect(製品名)として販売しています。
1995年~ DSDMコンソーシアム(英国)
RAD方法論ガイドラインを開発し普及するためのコンソーシアム。本部をロンドンに置き、約200社が活動しています。
1995年~ ORACLE社(米国)
Designers/2000 、Developers/2000
オラクル社が、開発した統合CASEツール。導入実績が多いので安心して利用できます。
1995年~ マイクロフォーカス(米国)
REVOLVE
COBOLのリ・エンジニアリングツール。解析機能に優れています。
1995年~ ナットシステムズインターナショナル(米国・仏国)
NATSTAR
フランスで最も成功したCASEツールベンダー。95年に米国に本社を移転し業務拡大を図ったが、国際的には成功しませんでした。
1997年~ CBOP(ビジネスオブジェクト推進協議会)
BFOP(ビジネス機能オブジェクトパターン)の開発
弊社は、OMG/UML表記に基づくビジネスオブジェクトモデルの継承パターン記述方法の開発と、日本で初めてのアプリケーションのパターン化(34種類のパターン)を行いました。
1998年~ Softlab(独)
Maestro II
ENABLERシステム
開発と保守プロセスの自動化と成果物の統合管理を支援するためのリポジトリーを提供しています。自動車会社であるBMW100%出資のSIベンダーであり、リポジトリー技術を応用して、ナレッジマネジメントにも進出しています。
1998年~ スターリング・ソフトウェア(米国)
cool:Plex、cool:Biz
弊社が、最も注目している開発ツールです。
1998年~ ABTCorporation(米国)
RESULTS MANAGEMENT SUITE
ABT社は、プロジェクト管理に関するあらゆる環境を提供しており、2000年以降、注目すべき技術であります。プロジェクト管理の標準化・統合化は、IT組織が成熟度を高めるための必須条件であり、今後、多くの企業が積極的に取り組むべき課題です。ABT社は、この分野で専門特化した最大のソフトウェアベンダーです。
1999年~
RATIONALsoftware(米国):
OO関連ツールベンダー
NEWRONDATA(米国):
ルールベースのモデリングツールのベンダー
HNC(米国)
ニューラル・コンピューティングを応用した不正防止ソフトウェア、1 to 1マーケティングソフトウェアなど多くの製品を提供しています。
これらが、私が直接かかわった代表的な会社です。この他にも、多くの方法論供給者とツールベンダー、データベースベンダー、メーカー、そしてユーザー企業の方々から、実務上の多くのことを教えていただきました。
多くの一流のベンダーと関わった事で学んだこと
ここでぜひお話しておきたいのは、どの会社が提供する製品も、バックグラウンドに5年から10年単位の情報化技術の大きな流れ、言い換えれば技術的基盤があるということです。そして、この流れは、ゆっくりであるが確実に進行しているという事実です。
この10年間に学んだことは
情報文化は、人が作り出しているということ
情報化の技術には大きな流れ(潮流)があり、この見極めが大変重要であること 潮流に逆らわずに行動すること(むしろ、流れを押し進めるように行動した方がよい)
世界は思ったより狭く、行動することでかなりの見通しがつき、自信を持って行動できるようになれること
方法論やCASEツールを知れば知るほど「人の考え方や行動」の重要性がはっきりしてきたこと
情報を隠さず出し合う事が、得策である事
などなどですが、まず、何かをやり遂げたいのであれば、実現したいと思うこと、実現できることを信じることが大切なのです。2000年代を生きるために互いに大いに協力し合おうではありませんか。
2000年1月7日